『宗論(しゆうろん)』(総ひらがな版)

 この章段は、(1)『流沙(りうさ)葱嶺(そうれい)』、(2)『宗論(しゆうろん)』、(3)『高野御幸(かうやごかう)』の三部から成ります。

故に、『流沙(りうさ)葱嶺(そうれい)』とも『高野御幸(かうやごかう)』とも呼ばれますが、一般には、『宗論(しゆうろん)』と呼ばれます。『剣』『鏡』と共に、「大秘事」の一句です。

凡例

流布本(総ひらがな版)に準じます。

三種有ります。

1.竜門文庫本 巻十巻末に有り、覚一本ではこれのみに有ります。

2.葉子十行本 巻十巻「高野巻」の中間に有ります。この(総ひらがな版)全巻は、後日公開予定ですので、予告編になります。

3.東京教育大学蔵、慶長五年写の妙覚寺旧蔵本 講談社文庫(流布本 総ひらがな版の底本)の補注より 

振り仮名の無い箇所は、私意に施しました(3.は、ほとんど有りません)。歴史的仮名遣いを主とします。

 

竜門文庫本 巻十巻末

『かうやごかう』S1015

\また\しらかはのゐん/の\おん−とき、\くわんぢ−にねん−しやうぐわつ−じふごにち、\せんとう/にて\しゆじゆ/の\ご−とくぎ\あり/けり。\しやうくわう\おほせ/ける/は、「\たうじ\さいてん/に\しやうじん/の\によらい\しゆつせ−し\たまひ/て、\せつぽふ\りしやう−し\たまふ/なる/に、\まゐり/て\ちやうもん−す/べし/や」/と\おほせ/られ/けれ/ば、\くぎやう−てんじやうびと\みな\まゐる/べき\よし\まうさ/れ/けり。\その−なか/に\ごうのそつ−まさふさのきやう\まうさ/れ/ける/は、「\ひとびと/は\まゐらせ\たまふ/とも、\まさふさ/に\おいて/は\かなひ\さうらふ/まじ。\その\ゆゑ/は、\わが−てう\しんだん/は\よ/の−つね/の\わたり/なれ/ば、\やすき\かた/も\さうらひ/なん。\てんぢく\しんだん/の\さかひ/は、\りうさ\そうれい/と\いふ\けんなん/なり。\わたり−がたく/して\こえ−がたき\みち/なり。\まづ\そうれい/と\いふ\やま\あり。\さいほく/は\だいせつせん/に\つづき、\とうなん/は\かいぐ/に\そびえ−いで/たり。\かの\やま/を\さかひ/て\ひがし/を\しんだん/と\いひ、\みなみ/を\てんぢく/と\なづけ、\にし/を\はし/と\いひ、\きた/を\ここく/と\なづけ/たり。\みち/の\とほさ/は\はつせん−より、\くさ/も\おひ/ず、\みづ/も\なし。\おほく/の\なんじよ\ある\なか/に、\ことに\たかき\みね\あり、\な/を\けいはらせいなん/と\なづけ/たり。\ぎんどう/を\のぞん/で\ひ/を\おくり、\はくうん/を\ふん/で\てん/に\のぼる。\くも/の\うはぎ/を\ぬぎ−さけ/て、\いは/の\かど/を\かかへ/つつ、\はつか/に/こそ/は\のぼる/なれ。\かの\やま/に\のぼり/ぬれ/ば、\さんぜんせかい/の\くわうけう/は\まなこ/の\まへ/に\あきらか/なり。\いちえんぶだい/の\ゑんきん/は、\あし/の\した/に\あつめ/たり。\つぎに\りうさ/と\いふ\かは\あり。\ひる/は\たにかぜ\はげしく/て、\いさご/を\とばし/て\あめ/の/ごとし。\よる/は\えうき\はしり−ちつ/て、\ひ/を\ともす\こと\ほし/に\に/たり。\かは/を\わたり/て/は\かはら/を\すぎ、\かはら\すぎ/て/は\かは/を\わたる\こと、\はちかにち/が\あひだ/に\ろつぴやくさんじふろくど/なり。\たとひ\わたる/と\いふ/とも、\すいなん/を\のがれ/ば\えうき/の\がい\まぬかれ−がたし。\たとひ\きみ/の\ふゐ/を\のがる/と\いふ/とも、\すいは/の\へうなん\さり−がたし。\されば\げんじやうさんざう/も、\かの\さかひ/に/して\ろくど/まで\いのち/を\うしなひ、\とりう/の\くるしみ/に\くち/しか/ども、\つぎ/の\じゆしやう/に/こそ\ほふ/をば\わたし\たまひ/けれ。〔\しかるに\てんぢく/に\あら/ず、\しんだん/に\あら/ず、\ほんてう\かうやさん/に\しやうじん/の\だいし\にふぢやう−し/て\おはします。\この\れいち/を/も\いまだ\ふま/ず/して、\いたづら/に\じつげつ/を\おくる\み/の、\たちまち\じふまんより/の\さんかい/を\しのぎ、\けんなん/を\こえ、\りやうじゆせん/まで\まゐる/べし/とも\おぼえ/ず。\てんぢく/の\しやかによらい、\ほんてう/の\こうぼふだいし\とも/に\そくしんじやうぶつ/の\げんしよう\これ\あらた/なり。〕/と/ぞ\まうさ/れ/ける。」\されば\さがのてんわう/の\おん−とき、\せいりやうでん/に/して、\しか/の\だいじようしゆう/の\せきとく/を\あつめ/られ/て、\けんみつ/の\ほうもん−ろんだん/を\いたす\こと\ましまし/き。\ほつさうじゆう/に\げんにん、\さんろんじゆう/に\だうしやう、\てんだい/に\ぎしん、\けごん/に\たうおう、\いちいち/に\わが\しゆう/の\めでたき\むね/を\たて\まうさ/る。\ほつさうじゆう/に\げんにん、「\わが\しゆう/に\さんじけう/を\たて/て、\いちだい/の\しやうげう/を\はんず。\いはゆる\うくうちゆう\これ/なり。」\さんろんじゆう/に\だうしやう、「\わが\しゆう/に/は\むしやうけう/を\たて/て、\いちだい/の\しやうげう/を\をしふ。\にざう/と/は\ぼさつざう・\しやうもんざう\これ/なり。」\てんだい/に\ぎしん、「\わが\しゆう/に/は\しけう−ごみ/を\たて/て、\いつさい/の\しやうげう/を\をしふ。\ざうつうべちゑん、\これ/なり。\ごみ/と/は\にう・\らく・\しやう・\じゆくそ・\だいごみ\これ/なり」。\けごん/に/は\たうおう、「\わが\しゆう/に/は\ごけう/を\たて/て、\いつさいしやうげう/を\はんず。\ごけう/は、\せうじようけう・\しけう・\しゆう〔けう〕・\とんけう・\ゑんけう\これ/なり」。\その−のち\しんごんじゆう/の\こうぼふ/は、\しばらく\わが\しゆう/に/は\じさう\けうさう/を\きよ/と/して、\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たて\まうさ/る。\その−とき\げんにん「\およそ\いちだいさんじ/の\けうもん/を\みる/に、\ただ\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし。\いづれ/の\もんしよう/に\よつ/て\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たて/らるる/や。\その\もんしよう\あら/ば\つぶさ/に\いださ/れ/て、\しゆゑ/の\ぎまう/を\はらさ/る/べし」/と\のたまへ/ば、\その−とき\こうぼふ「\なんぢ−たち/の\しやうげう/の\なか/に/は、\まことに\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし」。\その−とき\げんにん\かさね/て、「\もんしよう\あら/ば\いださ/れよ」/と\のたまへ/ば、\もんしよう/を\ひき\たまふ。「\にやくにんぐぶつゑ、\つうだつぼだいしん、\ぶもしよしやうじん、\そくしようだいかくゐ、\これら/の\もん/を\はじめ/と/して、\その\かず\すでに\はんた/なり。」\げんにん、「\もんしよう/は\いださ/れ/たる。\この\もん/の/ごとく\しゆう/を\え/たる\その\じつしよう\たれびと/ぞ/や」。「\その\じつしよう、\とほく\だいにちこんがうさつた\これ/なり。\ちかく/は\わが−み\すなはち\これ/なり」/とて、\て/に\みついん/を\むすび、\くち/に\みつごん/を\となへ、\こころ/に\くわんねん/を\おこし\たまへ/ば、\しやうじん/の\にくしん\たちまち/に\てんじ/て、\しま−わうごん/の\はだへ/と\なる。\しゆつけ/の\かうべ/の\うへ/に/は\じねん\ごゐ/の\ほうくわん/を\げんじ、\くわうみやう\さうてん/を\てらし/て\にちりん/の\ひかり/を\うばひ、\てうてい\はり/を\かかやかし/て、\みつごんじやうど/の\ぎしき/を\あらはす。\その−とき\くわうてい\ござ/を\さつ/て\らい/を\なさ/せ\たまふ。\しんかけいしやう\かぶり/の\こじ/を\かたぶけ、\なんと\ろくしゆう/の\ひん、\ち/に\ひざまづい/て\けいかく−す。\じやうぶつきそく/の\りつは/に/は、\たうおう・\だうしやう/も\した/を\まき、\ほつしん\しきさう/の\なんたう/に、\げんにん・\ぎしん/も\くち/を\とぢ/て、\つひ/に\ししゆう\きふく−し/て\もんえふ/に\まじはり、\いつてう\しんがう−し/て\はじめて\ほふりう/を\うけ\たまふ。\さんみつごち/の\みづ\しかい/に\みち/て、\くわんち/を\あらひ、\ろくだい\むげ/の\ぐわつてん\かかやき、\ぢやうや/を\てらし\たまへ/り。\ございしやう/の\のち/も\しやうじん\ふへん/に/して、\きねん/の\はうおん/を\きこしめし、\ろくじやう\ふたい/に/して\じそん/の\しゆつせ/を\まち\たまふ」。\しやうくわう\おほせ/られ/ける/は、「\かほど/の\こと/を\いま/まで\おぼしめし−よら/ざり/ける/よ」/とて、\やがて\あす\ごかう\ある/べき\よし\おほせ/られ/けれ/ば、\まさふさ\まうさ/れ/ける/は、「\あす/の\ごかう/も\あまり\そつじ/に\ぞんじ\さうらふ。\しやくそん\せつぽふ/の\みぎり/に、\じふろく/の\たいこく/の\しよわう/の\ぎやうがう/の\さほふ/は、\きんぎん/を\もつて\いしやう/と\し、\くらむま/を\かざり、\しゆぎよく/を\まじへ/て\くわんかい/を\ととのふ。\これ\なんぐ/の\おもひ/を\こらし、\し/を\いたし\たまふ\ところ/なり。\されば\わが−てう\かうや/の−お−やま/を/ば、\りやうじゆせん/と\おぼしめし/て、\ごかう/の\ぎしき/を\ひき−つくろは/る/べう/や\さうらふ/らん」/と\まうさ/れ/けれ/ば、\ひかず\ごかにち/を/ぞ\おか/れ/ける。\くぎやう−てんじやうびと\りようらきんしう/を\たち−かさね、\かうや/へ\なら/せ\たまひ/ける。\かうやごかう/の\はじめ/なり。

 

2.葉子十行本

\しらかはのゐん/の\おん−とき、\せんとう/にて\しゆしゆ/の\おん−だんぎ\あり/ける/に、\しやうくわう\おほせ/の\あり/ける/は、「\たうじ\さいてん/に\しやうじん/の\によらい\しゆつせ−し\たまひ/て、\せつぽふ\りしやう−し\たまふ/に、\まゐつ/て\ちやうもん−す/べし/や」/と\おほせ/られ/けれ/ば、\くぎやう−てんじやうびと\まゐる/べき\よし\まうさ/れ/ける/に、\かうのそつ−きやうばうきやう/の\まうさ/れ/ける。「\ひとびと/は\まゐらせ\たまふ/とも、\きやうばう/に\おいて/は\かなひ\さうらふ/まじ。\わが−てう/は\しんだん/の\さかひ、\よ/の−つね/の\とかい/なれ/ば、\やすき\かた/も\さうらひ/なん。\てんぢく\しんだん/の\さかひ/に、\りうさ・\そうれい/と\いふ\けんなん\あり。\わたり−がたく/して\こえ−がたき\みち/なり。\まづ\そうれい/と\いふ\やま\あり。\せいほく/は\だいせつせん/に\つづき、\とうなん/は\かいぐ/に\そびえ−いで/たり。\かの\やま/を\さかう/て\ひがし/を\しんだん/と\いひ、\みなみ/を\てんぢく/と\なづけ/たり。\にし/を\しやつけう/と\いふ、\きた/を\ここく/と\なづけ/たり。\みち/の\とほさ/は\はつせん−より、\くさ/も\おひ/ず、\みづ/も\なし。\おほく/の\なんじよ\ある\なか/に、\ことに\たかき\ところ\あり。\その\な/を\けいはらせいなん/と\なづけ/たり。\ぎんかん/に\のぞん/で\ひ/を\おくり、\はくうん/を\ふん/で\てん/に\のぼる、\くも/の\うはぎ/を\ぬぎ−さけ/て、\いは/の\かど/を\かかへ/つつ、\はつか/に/こそ/は\のぼる/なれ。\かの\やま/に\のぼり/ぬれ/ば、\さんぜんせかい/の\くわうけふ/は\まなこ/の\まへ/に\あきらか/なり。\いちゑんぶだい/の\ゑんきん/は、\あし/の\した/に\あつめ/たり。\つぎに\りうさ/と\いふ\かは\あり。\ひる/は\たにかぜ\はげしく/て、\いさご/を\とばし/て\あめ/の/ごとし。\よる/は\えうき\はしり−ちつ/て、\ひ/を\ともし/て\ほし/に\に/たり。\かは/を\わたつ/て、\かはら/を\すぎ、\かはら\すぎ/て/は\かは/を\わたる\こと、\はちかにち/が\あひだ/に\ろつぴやくさんじふろくど/なり。\たとひ\み/の\ふゐ/を\のがる/と\いふ/とも、\すゐは/の\へうなん\さり−がたし。\されば\げんじやうさんざう/も、\かの\さかひ/に/して\ろくど/まで\いのち/を\うしなひ、\とりう/の\こけ/に\くち/に/しか/ども、\つぎ/の\じゆしやう/に/こそ\ほふ/を\わたし\たまひ/けれ。\しかるに\てんぢく/に\あら/ず、\しんだん/に\あら/ず、\ほんてう\かうやさん/に\しやうじん/の\だいし\にふぢやう−し/て\おはす。\この\れいち/を/も\いまだ\ふま/ず/して、\いたづら/に\じつげつ/を\おくる\み/の、\たちまち/に\じふまんより/の\さんかい/を\しのぎ、\けんなん/を\こえ、\りやうじゆせん/まで\まゐる/べし/とも\おぼえ/ず。\てんぢく/の\しやかによらい、\ほんてう/の\こうぼふだいし\とも/に\そくしんじやうぶつ/の\げんしよう\これ\あらた/なり。」/と/ぞ\まうさ/れ/ける。「\されば\さがのてんわう/の\おん−とき、\せいりやうでん/に/して、\しけ/の\だいじようしゆう/の\せきがく/を\あつめ/られ/て、\けんみつ/の\ほふもん/の−ろんだん/を\いたす\こと\ましまし/き。\ほつさうじゆう/に\げんにん、\さんろんじゆう/に\だうしやう、\てんだい/に\ぎしん、\けごん/に\たうおう、\いちいち/に\わが\しゆう/の\めでたき\むね/を\たて\まうさ/る。\ほつさうじゆう/の\げんにん『\わが\しゆう/に/は、\さんじのけう/を\たて、\いちだい/の\しやうげう/を\はんず。\いはゆる\うくうちゆう\これ/なり』\さんろんじゆう/に\だうしやう『\わが\しゆう/に/は、\むしやうけう/を\たて、\いちだい/の\しやうげう/を\をしふ。\にざう/と\いふ/は、\ぼさつざう・\しやうもんざう/なり』\てんだい/に\ぎしん『\わが\しゆう/に/は、\しけう−ごみ/を\たて/て\いつさい/の\しやうげう/を\をしふ。\ざうつうべつゑん/なり。\ごみ/と/は\にゆう\らく・\しやう・\じゆくそ・\だいごみ\これ/なり』\けごん/に/は\たうおう『\わが\しゆう/に/は、\ごけう/を\たて/て\いつさいしやうげう/を\はんず。\ごけう/は、\せうじようけう・\しけう・\しゆうけう・\とんけう・\ゑんけう\これ/なり』\その−のち\しんごん/の\こうぼふ、\しばらく\わが\しゆう/に/は、\じさう\けうさう/を\きよ/と/して、\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たて/て\まうさ/る。\その−のち\げんにん『\およそ\いちだいさんじ/の\けうもん/を\みる/に、\ただ\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし。\いづれ/の\けう/の\もんしよう/に\よつ/て、\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たて/らるる/や。\その\もんしよう\あら/ば、\つぶさ/に\いださ/れ/て\しゆゑ/の\ぎまう/を\はらは/る/べし」/と\いへ/ば、\その−とき\こうぼふ『\なんぢ−たち/の\しやうげう/の\なか/に/は、\まことに\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし』\その−とき\げんにん\かさね/て\いはく、『\まことに\その\もんしよう\あら/ば、\つぶさ/に\いださ/れよ』/と\のたまへ/ば、\もんしよう/を\ひき\たまふ。\にやくにんぐぶつゑ、\つうだつぼだいしん、\ぶもしよしやうじん、\そくしようだいかくゐ、\これら/の\もん/を\はじめ/と/して、\その\かず/に\はんだ/なり。\げんにん『\もんしよう/は\いださ/れ/たり。\この\もん/の/ごとく\むね\え/たる\その\じつ\たれびと』『\その\じつしよう\とほく/は\だいにちこんがうさつた\これ/なり。\ちかく/は\わが−み\すなはち\これ/なり』/とて、\みついん/を\むすび、\くち/に\みつごん/を\となへ、\こころ/に\くわんねん/を\こらし\たまへ/ば、\しやうじん/の\にくしん、\たちまち/に\てんじ/て\しま−わうごん/の\はだへ/と\なり、\しゆつか/の\かうべ/の\うへ/に/は\じねん/に\ごぶつ/の\はうくわん/を\げんじ、\くわうみやう\さうてん/を\てらし/て\にちりん/の\ひかり/を\うばひ、\てうてい\はり/を\かかやかし/て\みつごんじやうど/の\ぎしき/を\あらはす。\その−とき\くわうてい\ござ/を\さつ/て\らい/を\なさ/せ\たまふ。\しんかけいしやう\かぶり/の\こじ/を\かたむけ、\なんと\ろくしゆう/の\ひん\ち/に\ひざまづき\けいがく−す。\じやうぶつちそく/の\りつは/に/は\たうおう\だうしやう\した/を\まき、\ほつしん\しきさう/の\なんたふ/に/は\げんにん・\ぎしん\くち/を\とづ。\ししゆう\きふく−し/て、\つひに\もんえふ/に\まじはり、\いつてう\しんかう−し/て\ほふりう/を\うく。\さんみつごち/の\みづ\しかい/に\みち/て、\くんち/を\すすぎ、\ろくだい\むげ/の\ぐわつ\いつてん/に\かかやき、\ちやうや/を\てらし\たまへ/り。\ございしやう/の\のち/も、\しやうじ\わかれ/ず/して、\きねん/の\はうおん/を\きこしめし、\ろくじやう\ふたい/に/して\じそん/を\まち\たまふ」。\しやうくわう\おほせ/られ/ける/は、「\かやう/の\こと/を\いま/まで\おぼしめし−よら/ざり/けり。\あす\ごかう\なる/べき」\よし\あふせ/けれ/ば、\きやうばう\まうさ/れ/ける/は、「\あす/の\ごかう/も\そつじ/に\ぞんじ\さうらふ。\しやかぶつ\せつぽふ/の\みぎり/に、\じふろく/の\たいこく/の\しよわう、\ぎやうがう/の\さほふ/は、\きんぎん/を\もつて\いしやう/と\し、\くらむま/を\かざり、\しゆぎよく/を\まじへ/て\くわんかい/を\かざり\たまふ。\これ\なんぐ/の\ぎし/を\いたし\たまふ\ところ/なり。\わが−てう\かうや/の−お−やま/を/ば、\りやうじゆせん/と\おぼしめさ/れ、\しやうじん/の\だいし/を/ば、\しやかによらい/と\おぼしめし/て、\ごかう/の\ぎしき/を\ひき−つくろは/る/べう/や\さうらふ/らん」/と\まうさ/れ/けれ/ば、\よじつ\ごかにち/を\おか/れ/て、\くぎやう−てんじやうびと\りようらきんしう/を\たち−かさね、\かうや/へ\なら/せ\たまひ/けり。\これ/ぞ\かうやごかう/の\はじめ/なる。\

 

3.東京教育大学蔵、慶長五年写の妙覚寺旧蔵本

「しゆうろん」

\いにしへ\かうや/の−お−やま\くわうはい−し/て、\ろくじふ−よ−ねん/なり/けり。\しゆぼく\しげつ/て\かげ\くらく、\すず/の\ほそみち\あと\たえ/て、\いづく/に\だうたふ\あり/と/も\みえ/ざり/し/を、\ぢきやう−しやうにん/と\いつ/し\ひと、\はじめて\たづね\あらためて、\しゆざう−せ/られ/ける/とかや。〔\また〕\しらかはのゐん/の\おん−とき、\さんぬる\くわんぢ−にねん−しやうぐわつ−じふごにち/に、\せんとう/にて\ご−いうえん/の\みぎり、\しゆじゆ/の\おん−だんぎ−ども\あり/し/に、〔\しやうくわう\おほせ/ける/は、〕\たうじ\てんぢく/に\しやうじん/の\によらい\しゆつせ−し〔\たまひ〕/て、\せつぽう〔\りしやう〕−し\たまふ/と\うけたははり−およば/ん/に、\おのおの\あゆみ/を\はこび\かうべ/を\かたぶけ、\たなごころ/を\あはせ/て\まゐり\たまひ/な/ん/や/と\いふ\いちぎ/の\いで/たり/ける/に、〔\まゐり/て\ちやうもん−す/べし/や/と\おほせ/られ/けれ/ば、\くぎやう−てんじやうびと〕\みな\まゐる/べき\よし/を\まうさ/る。\その−なか/に、\がうの−そつ−まさふさの−きやう/と\いひ/し\ひと、\その−とき/は\いまだ\さだいべん/の−さいしやう/にて、\ばつざ/に\さうらは/れ/ける/が、\すすみ−いで/て\まうさ/れ/ける/は、\ひとびと/は\みな\まゐる/べき\よし/を\まうさ/せ\たまへ/ども、\まさふさ/に\おいて/は\まゐる/べし/と/も\おぼえ\さうらは/ず/と\まうさ/れ/けれ/ば、\その−とき\しよ−きやう\いちどう/に\ぎしん/を\なし/て、\おのおの/は\みな\まゐる/べき\よし/を\まうさ/るる\なか/に、\ご−へん\いち−にん\まゐら/じ/と\まうさ/るる/は、\しさい\いかやう/の\こと/ぞ/や。\その−とき\がうの−そつ\まうさ/れ/ける/は、〔\その\ゆゑ/は、〕\ほんてう\だいそう/の\あひだ〔\わが−てう\しんだん〕/は、\よ/の−つね/の\とかい/なれ/ば、\おのづから\たやすう\わたる\こと/も\さうらひ/な/ん/ず。\てんぢく\しんだん/の\さかひ、\りうさ\そうれい/の\けんなん、\わたり−がたう\こえ−がたき\みち/なり。\まづ\そうれい/と\いふ\やま/は、\さいほく/は\だいせつせん/に\つづい/て、\とうなん/は\かいぐ/に\そびえ−いで/たり。\ぎんかん/に\のぞん/で\ひ/を\くらし、\はくうん/を\ふん/で\てん/に\のぼる。\みち/の\とほ−さ/は\はつせん−よ−り、\くさき/も\おひ/ず、\みづ/も\なし。\くも/の\うはぎ/を\ぬぎ−さき/て、\こけ/の\ころも\き/ぬ\やま/の\いは/の\かど/を\かかへ/つつ、\はつか/に/こそ\こえ−はつ/なれ。\この\みね/を\さかつ/て\にし/を\てんぢく/と\いひ、\ひがし/を\しんだん/と〔\いひ、\みなみ/を\てんぢく/と\なづけ、\にし/を\はし/と\いひ、\きた/を\ここく/と〕\なづけ/たり。〔\おほく/の\なんじよ\ある〕\その\なか/に、\ことに\そびえ/たる\やま〔\たかき\みね〕\あり、〔\な/を〕\けいはらさいなん/と/も\なづけ/たり。\この\みね/に\のぼり/ぬれ/ば、\さんぜんせかい/の\くわうけふ/は、\まなこ/の\まへ/に\あらはれ、\いちえんぶだい/の\えんきん/は、\あし/の\した/に\あつめ/たり。\また\りうさ/と\いふ\かは\あり。\みづ/を\わたつ/て\かはら/を\ゆき、\かはら/を\ゆい/て/は\みづ/を\わたる。\かやう/に\する\こと、\はちかにち/が\あひだ/に\ろつぴやくさんじふしちど/なり。\しらなみ\みなぎり−おち/て、\がんぜき/を\うがち、\せいえん\みづ\まい/て、\こ/の−は/を\しづむ。\ひる/は\けいふう\ふき−たて/て、\いさご/を\とばし/て\あめ/の/ごとし。\よる/は\えうき\はしり−ちつ/て、\ひ/を\ともす\こと\ほし/に\に/たり。\たとひ\しんゑん/を/ば\わたる〔/と\いふ〕/とも、〔\すいなん/を\のがれ/ば〕〔\えうき/の\がいなん/は\のがれ−がたし。\たとひ〕\きみ/の\ふゐ/を/ば\まぬかる〔/と\いふ〕/とも、\すいは/の\へうなん/は\さり−がたし。\され/ば\げんじやう−さんざう/も、〔\かの\さかひ/に/して〕\ろくど/まで\この\みち/に\おもむい/て、\いのち/を\うしなひ\たまひ/けり。〔\とりう/の\くるしみ/に\くち/しか/ども、〕\つぎ/の\じゆしやう/の\とき/に/こそ、\ほふ/を/ば\つたへ\たまひ/けれ。\しかる/を\てんぢく/に/も\あら/ず、\しんだん/に/も\さうらは/ず、\わが−てう\かうやの−お−やま/に、\しやうじん/の\だいし\にふぢやう−し/て\おはします。\かかる\れいち/を/だに/も\いまだ\ふま/ず/して、\むなしう\としつき/を\おくる\み/が、\たちまち/に\じふまんより/の〔\やまうみ/を\しのぎ、〕\けんなん/を\しのい/で、\りやうじゆせん/の\みぎん/に\いたる/べし/とも\おぼえ\さうらは/ず。\てんぢく/の\しやかによらい/と、\わが−てう/の\こうぼふだいし/は、〔\とも/に〕\そくしんじやうぶつ/の\げんしよう\これ\あらた/なり。〔/と/ぞ\まうさ/れ/ける。〕\その\ゆゑ/は、\さがの−くわうてい/の\おん−とき、\だいし\せいりやうでん/に/して、\しか/の\だいじようしゆう/の\せきとく−たち/を\あつめ/て、\けんみつ\ろんだん/の−ほふもん\いださ/るる\こと\あり/けり。\ほつさうじゆう/の\げんにん、\さんろんじゆう/の\だうしやう、\けごんしゆう/の\だうおう、\てんだいしゆう/の\ゑんちよう\しんごんしゆう/の\こうぼふ、\おのおの\わが\しゆう/の\めでたき\やう/を\たて\まうさ/れ/たり。まづ\ほつさうじゆう/の\げんにん、\わが\しゆう/に/は、\さんじけう/を\たて/て、\いつさい/の\しやうげう/を\はんず。\さんじけう/と\いつぱ\いはゆる\うくうちゆう\これ/なり/と\うんうん(うんぬん)。\さんろんじゆう/の\だうしやう、\わが\しゆう/に/は\にざう/を\たて/て、\いつさい/の\しやうげう/を\しめす。\にざう/と\いつぱ\ぼさつざう、\しやうもんざう\これ/なり/と\うんうん(うんぬん)。\けごんしゆう/の\だうおう、\わが\しゆう/に/は\ごけう/を\たて/て、\いつさい/の\しやうげう/を\をしふ。\ごけう/と\いつぱ、\せうじようけう、\しけう、\しゆうけう、\とんけう、\ゑんけう\これ/なり/と\うんうん(うんぬん)。\てんだいしゆう/の\ゑんちよう、\わが\しゆう/に/は\しけう−ごみ/を\たて/て、\いつさい/の\しやうげう/を\はんず。\しけう/と\いつぱ\ざうつうべちゑん、\ごみ/は、\にう\らく\しやう\じゆく〔そ〕\だいご〔み〕\これ/なり/と\うんうん(うんぬん)。\しんごんしゆう/の\こうぼふ、\わが\しゆう/にて/は、\しばらく\じさう\けうさう/を、\をしふ/と\いへ/ども、\しんごん/の\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たつ。\その−とき\しか/の\だいじようしゆう/の\せきとく−たち、\しんごん/の\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\いちどう/に\うたがひ\まうさ/れ/けり。\まづ\ほつさうじゆう/の\げんにん\なんじ/て\いは−く、\それ\いちだい−さんじ/の\けうもん/を\み\さうらふ/に、\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\しんごん/の\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし。\いづれ/の\しやうげう/の\もん/を\もつて、\そくしんじやうぶつ/の\ぎ/を\たて/らるる/ぞ/や。\その\もん\あら/ば、\すみやか/に\もんしよう/を\いださ/れ/て、\しゆゑ/の\ぎまう/を\はらさ/れよ/と/ぞ\いは/れ/ける。〔\その−とき\こうぼふ〕だいし\こたへ/て\のたまは−く、\まことに\なんぢ−ら/が、\がくする\ところ/の\しやうげう/の\なか/に/は、〔\まことに〕\さんごふ−じやうぶつ/の\もん/のみ\あつ/て、\しんごん/の\そくしんじやうぶつ/の\もん\なし」。〔\その−とき\げんにん\かさね/て\もんしよう\あら/ば\いださ/れよ/と\のたまへ/ば、\もんしよう/を\ひき\たまふ。〕\かつがつ\まづ\もんしよう/を\いださ/ん/とて\にやくにんぐぶつゑ、\つうだつ−ぼだいしん、\ぶも−しよしやうじん、\そくしようだいかくゐ、\これ〔−ら/の\もん〕/を\はじめ/て、\もんしよう/を\ひき\たまふ\こと\その\かず〔\すでに〕\はんた/なり。」\げんにん\かさね/て\いは−く、\まことに\もんしよう/を/ば\いださ/れ/たり。\この\もん/の/ごとく\その\むね/を\え/たる〔\その〕\にんしよう/は\たれびと/ぞ/や。\だいし\こたへ/て\のたまは−く、〔\その\じつしよう、〕\とほく/は\だいにちこんがうさつた、〔\これ/なり。〕\ちかく/は\わが−み\すなはち\これ/なり/とて、\かたじけなく/も\りようがん/に\むかひ\たてまつ/て、\て/に\みついん/を\にぎり\くち/に\ぶつご/を\じゆし〔\みつごん/を\となへ〕、\こころ/に\くわんねん/を\こらし/て、\み/に\ぎぎ/を\そなふ。\しやうじん/の\にくしん\へんじ/て、\たちまち/に\しま−わうごん/の\はだへ/と\なり、〔\しゆつけ/の〕\かうべ〔/の\うへ〕/に〔/は\じねん/に〕\ごぶつ/の\ほうくわん/を\げんじ、\くわうみやう\さうてん/を\てらし/て、\にちりん/の\ひかり/を\うばひ\たまふ。\てうてい\はり/に\かがやい/て〔\みつごん〕じやうど/の\しやうごん/を\あらはす。\とき/に\ていわう\ござ/を\さつ/て\らい/を\なし、\しんか〔−けいしやう〕\きやうがく−し/て、\み/を\まげ、\なんと\ろくしゆう/の\ひん、\ち/に\ひざまづい/て\けいしゆ−し、\ほくれい−しめい/の\かく\には/に\ふし/て\せつそく−す。\じやうぶつちそく/の\りつぱ/に/は、\だうおう\だうしやう/も\くち/を\とぢ、\ほふしん\しきしやう/の\なんたふ/に/は、\げんにん\ゑんちよう/も\した/を\まく。\つひ/に\しけう\きふく−し/て\もんえふ/に\くははり/つ。\いつてう\はじめて\しんがう−し/て\だうりう/を\うく。\さんみつごち/の\みづ、\しかい/に\みち/て、\ぢんく/を\あらひ、\ろくだい\むげ/の\つき、\いつてん/に\かがやい/て\ぢやうや/を\てらす。\され/ば\ご−ざいしやう/の\のち/も\しやうじん\ふへん/に/して、\じそん/の\しゆつしやう/を\まち、\ろくじやう\かはら/ず/して、\きねん/の\ほふおん/を\きこしめす。\この\ゆゑ/に、\げんぜ/の\りしやう/も\たのみ\あり、\ごしやう/の\いんだう/も\うたがひ\なき\おん−こと/なり/と/ぞ\まうさ/れ/ける。\しやうくわう\おほき/に\おどろか/せ\たまひ/て〔\おほせ/られ/ける/は〕、\これ/ほど/の\こと/を\いま/まで\おぼしめし−よら/ざり/つる\こと/こそ、\かへすがへす/も\おろか/なれ/とて、\やがて\あす\かうや−ごかう/の\よし\おほせ−くださ/る。\がうの−そつ〔−まさふさ〕\まうさ/れ/ける/は、\あす/の\ごかう/も\あまり\そつじ/に\おぼえ\さうらふ。\むかし\しやくそん\りやうじゆせん/にて、\おん−せつぽふ\あり/し\みぎん/に、\じふろく/の\たいこく/の\しよわう−たち/の、\みゆき/なり/し\ぎしき/に/は、\きんぎん/を\のべ/て〔\いしやう/と\し、\くらむま/を\かざり、〕\ほうよ/を\なし、\しゆぎよく/を\つらね/て、\くわんかい/を\かざり\たまへ/り。\これ\すなはち\けう−なんさう/の\あゆみ/を\こらし/て、\ずいき−かつがう/の\こころざし/を\いたさ/せ\たまふ\さほふ/なり。\いま\きみ/の\みゆき/も、\それ/に/は\たがは/せ\たまふ/べから/ず。〔\され/ば〕\わが−てう/の\かうや/の−お−やま/を/ば、\てんぢく/の\りやうじゆせん/と\おぼしめし、\こうぼふだいし/を/ば、\しやうじん/の\しやかによらい/と\くわんぜ/させ\たまひ/て、\ごかう/の\ぎしき/を\ひき−つくろは/せ\たまふ/べう/も/や\さうらは/ん/と\まうさ/れ/たり/けれ/ば、\この\ぎ\もつとも\しかる/べし/とて、\ひかず\さんじふにち/を\あひ−のべ/らる。\その\あひだ/に、\ぐぶ/の\くぎやう−てんじやうびと/も、\りようら−きんしう/を\あつめ/て、\いしやう/を\ととのへ、\きんぎん/を\ちりばめ/て、\くらま/を\かざり\たまへ/り。\これ/ぞ\かうや−ごかう/の\はじめ/なる。\

 

平家物語

 

TOP