天正本 総平仮名版

底本 水府明徳会彰考館蔵天正本「太平記」 新編日本古典文学全集 小学館

諸本中、最も特徴の顕著な異本。全巻一筆の完本で、天正本系写本中の最善本です。

凡例

振り仮名と本行の仮名を歴史的仮名遣いを主として平仮名にて入力しました。

底本に無い振り仮名は、私意に付けました。

各章段は、「 」に入れ、その後に原本に無い番号を振りました。

例: 「さがみのかみたかとき¥けんぺい/を¥とる¥こと」1

参考に岩波古典文学大系の章段も表示しました。その頭に原本に無い番号を振りました。

例: 1.ごだいごのてんわう¥ごちせい/の¥こと¥つけたり¥ぶけ¥はんじやう/の¥こと¥

小学館古典文学全集のページを表示しました。その前後で改行しました。

 

参考に岩波古典文学大系のページも表示しました。改行無し。

参考に、「流布本」(岩波古典文学大系)にあり、「天正本」に無い語句(一部)を〔  〕に入れて表示しました。

 

*記号の説明   ¥ / − 

単語を単位に区切り、記号で区別をします(この記号は、後に索引製作等に利用するために自分用に付けた物ですので、参考程度にお願いします。)

¥ 文節の区切り

/ 助詞・助動詞の前

― 連語のつなぎ(これはまだ、ほとんど付けてありませんが、全巻完成後に、付けます。)

 

太平記巻第一 たいへいきくわんだいいち¥

P19¥

じよ¥

もう¥ひそかに¥ここん/の¥へんくわ/を¥とつ/て¥あんき/の¥しよいう/を¥みる/に¥おほつ/て¥ほか¥なき/は¥てん/の¥とく/なり。¥めいくん¥これ/に¥ていし/て¥こつか/を¥たもつ。¥のせ/て¥すつる¥こと¥なき/は¥ち/の¥みち/なり。¥りやうしん¥これ/に¥のつとつ/て¥しやしよく/を¥まもる。¥もし¥その¥とく¥かくる¥とき/は¥ゐ¥あり/と¥いへ/ども¥たもた/ず。¥いはゆる¥か/の¥けつ/は¥なんさう/に¥はしり¥いん/の¥ちう/は¥ぼくや/に¥はいす。¥その¥みち¥たがふ¥とき/は¥ゐ¥あり/と¥いへ/ども¥たもた/ず。¥かつて¥きく¥てうかう/は¥かんやう/に¥しし、¥ろくさん/は¥ほうしやう/に¥ばうず。¥ここをもつて¥ぜんせい¥つつしん/で¥ほふ/を¥しやうらい/に¥たるる¥こと/を¥え/たり。¥こうこん¥かへりみ/て¥いましめ/を¥きわう/に¥とら/ざら/ん/や。

P20¥

「さがみのかみたかとき¥けんぺい/を¥とる¥こと」1

1.ごだいごのてんわう¥ごちせい/の¥こと¥つけたり¥ぶけ¥はんじやう/の¥こと¥

ここに¥ほんてう¥にんわう/の¥はじめ¥じんむてんわう/より¥くじふごだい/の¥みかど¥ごだいごのてんわう/の¥ぎよう/に¥P35¥ぶしん¥さがみのかみたひらのたかとき/と¥いふ¥もの¥あり/て、¥かみ¥きみ/の¥とく/に¥たがひ、¥しも¥しん/の¥れい/を¥うしなふ。¥これ/に−より¥しかい¥おほい/に¥みだれ/て¥いちにち/も¥いまだ¥やすから/ず。¥らうえん¥てん/を¥かくし、¥げいは¥ち/を¥うごかす。¥いま/に¥いたつ/て¥さんじふよねん。¥ひとり¥しゆんじう/に¥とむ¥こと/を¥え/ず、¥ばんみん¥しゆそく/を¥おく/に¥ところ¥なし。¥

つらつら¥その¥らんしやう/を¥たづぬれ/ば、¥わざはひ¥いつてういつせき/の¥ゆゑ/に¥あら/ず。¥げんりやくねんちゆう/に¥かまくらのうだいしやうよりとものきやう¥へいけ¥ついたうし/て¥その¥こう¥あり/し¥とき¥ごしらかはのゐん¥えいかん/の¥あまり/に¥ろくじふろくかこく/の¥ついぶし/に¥ふせ/らる。これ/より¥ぶけ¥はじめて¥たつ/て¥しよこく/に¥しゆご/を¥おき、¥しやうゑん/に¥ぢとう/を¥ふす。¥かの¥よりとも/の¥ちやうなん¥さゑもんのかみよりいへ¥じし¥うだいじんさねともこう¥あひつい/で¥みな¥せいいしやうぐん/の¥ぶしやう/に¥そなはる。¥これ/を¥さんだいしやうぐん/と¥かうす。¥しか−あれ/ども、¥よりいへ/は¥さねともこう/の¥ため/に¥うた/れ¥さねとも/は¥よりいへ/の¥こ¥あくぜんじ−くげう/の¥ため/に¥うた/れ/て¥げんじ/の¥だい¥わづか/に

P21¥

しじふにねん/にして¥つき/ぬ。¥その¥のち¥よりとものきやう/の¥しうと¥とほたふみのかみたひらのときまさ/が¥しそく¥さきのむつのかみよしときあそん、¥しぜん/に¥てんが/の¥けんぺい/を¥とつ/て、¥いきほひ¥やうやく¥しかい/に¥おほは/ん/と¥す。¥この¥とき/の¥だじやうかう¥ごとばのゐん¥ぶゐ¥しも/に¥ふるは/ば¥てうけん¥うへ/に¥すたれ/ん¥こと/を¥なげきおぼしめし/て¥よしとき/を¥ほろぼさ/ん/と¥し¥たまひ/し/に¥しようきうのらん¥いでき/て¥てんが¥しばらく/も¥しづか/なら/ず。¥つひに¥せいき¥ひ/を¥かすめ/て¥うぢ¥せた/にして¥あひたたかふ。¥その¥たたかひ¥いまだ¥いちにち/も¥をへ/ざる/に¥くわんぐん¥たちまちに¥はいぼくせ/しか/ば¥ごとばのゐん/は¥おきのくに/へ¥うつさ/れ/させ¥たまひ/て¥よしとき¥いよいよ¥はつくわう/を¥たなごころ/の¥なか/に¥にぎり、¥それ/より¥のち¥むさしのかみやすとき¥すりのすけときうぢ¥〔むさしのかみつねとき〕¥さがみのかみときより¥さまのごんのかみときむね¥さがみのかみさだとき¥あひつづい/て¥しちだい¥まつりごと¥ぶけ/より¥いで/て¥とく¥きゆうみん/を¥ゐするP36/に¥たれ/り。¥ゐ¥まんにん/の¥うへ/に¥かうふら/しむ/と¥いへ/ども¥くらゐ¥しほん/の¥あひだ/を¥こえ/ず。¥けん/に¥きよし/て¥じんおん/を¥ほどこし/て、¥おのれ/を¥せめ/て¥れいぎ/を¥ただしふし、¥ここをもつて¥たかし/と¥いへ/ども¥あやふから/ず¥みて/り/と¥いへ/ども¥あふれ/ず。

P22¥

「きやうと/に¥りやうろくはら/を¥すゑ¥ちんぜい/に¥たんだい/を¥くだす¥こと」2¥

しようきう−ぐわんねん/より¥このかた¥しよわう¥せつけ/の¥あひだ/に¥りせいあんこく/の¥き/に¥あひあたり¥たまへ/る/を¥いちにん¥かまくら/へ¥まうしくだし¥たてまつり、¥しやうぐん/と¥かうし/て、¥ぶしん¥みな¥はいすうのれい/を¥かいつくろふ。¥おなじき¥さんねん/に¥はじめて¥らくちゆう/に¥りやうにん/の¥いちぞく/を¥すゑ/て¥ろくはら/と¥かうし¥さいごく/の¥さた/を¥とりおこなは/せ¥〔きやうと/の¥けいゑ/に¥そなへ/らる。¥また〕¥えいにんぐわんねん/より¥ちんぜい/に¥いちにん/の¥たんだい/を¥くだし/て、¥きうしう/の¥せいばい/を¥つかさどら/しめ¥いこく¥しふらい/の¥そなへ/を¥かたう¥す。¥されば¥いつてん/の¥した、¥あまねく¥かの¥げぢ/に¥したがは/ず/と¥いふ¥ところ¥なく¥しかい/の¥ほか/も¥ひとしく¥その¥けんせい/に¥ふくせ/ず/と¥いふ¥もの/は¥なかり/けり。¥てうやう¥をかさ/ざれ/ども¥ざんせい¥ひかり/を¥うばは/るる¥ならひ/なれ/ば¥かならずしも¥ぶけ/の¥ともがら¥くげ/を¥さみし¥たてまつら/ん/としも¥なかり/しか/ども¥ところ/には¥ぢとう¥つよく/して¥りやうけ/は¥よわく¥くに/には¥しゆご¥おもく/して¥こくし/は¥かろし。¥この¥ゆゑ/に¥てうてい/は¥としどし/に¥おとろへ/て、¥ぶけ/は¥ひび/に¥さかん/なり。¥これによつて¥だいだい/の¥せいしゆ¥とほく/は¥しようきう/の¥しんきん/を¥やすめ/ん/が¥ため¥ちかく/は¥てうぎ/の¥すたれぬる/を¥なげきおぼしめし/て¥とうい/を¥ほろぼさ

P23

/ばや/と¥つね/に¥えいりよ/を¥めぐらさ/れ/しか/ども¥あるいは¥いきほひ¥び/に/して¥かなは/ず¥あるいは¥とき¥いまだ¥いたら/ず/して¥もだし¥たまひ/ける¥ところに¥ときまさ¥くだい/の¥こういん¥さきのさがみのかみたひらのたかときにふだうそうかん/が¥とき/に¥いたつ/て¥〔てんち¥めい/を¥あらたむ/べき¥きき¥ここ/に¥あらはれ/たり。¥つらつら¥いにしへ/を¥ひい/て¥いま/を¥みる/に〕¥かうせき¥はなはだ¥かろく/して¥ひと/の¥あざけり/をも¥かへりみ/ず¥せいだう¥ただしから/ず。¥たみ/の¥つひえ/を¥おもは/ず¥ただ¥にちやP37/に¥いついう/を¥こととし/て¥ぜんれつ/を¥ちか/に¥はづかしめ/て、¥てうぼ/に¥きもつ/を¥もてあそん/で、¥けいはい/を¥しやうぜん/に¥いたさ/ん/と¥ほつす。¥ゑい/の¥いこう¥つる/を¥のせ/し¥たのしみ¥はやく¥つき/て、¥しん/の¥りし/が¥いぬ/を¥ひく¥うらみ¥いま¥きたり/な/ん/と¥みる¥ひと¥まゆ/を¥ひそめ¥きく¥ひと¥した/を¥ひるがへす。¥この¥とき/の¥みかど¥ごだいごのてんわう/と¥まうし/し/は¥ごうだのゐん¥だいにのわうじ¥だつてんもんゐん/の¥おんはら/にて¥ましまし/し/を¥さがみのかみ/が¥はからひ/として¥おんとし¥さんじふいち/の¥おんとき、¥はじめて¥おんくらゐ/に¥つけ¥たてまつる。¥ございゐ/の¥あひだ¥うち/には¥さんがうごじやう/の¥ぎ/を¥ただし/て¥しうこう¥こうし/の¥みち/に¥したがひ¥ほか/には¥ばんきはくしのまつりごと/に¥おこたら/せ¥たまは/ず。¥えんぎ¥てんりやく/の¥あと/を¥おは/れ/しか/ば¥しかい¥ふう/を¥のぞん/で¥よろこび¥ばんみん¥とく/に¥きし/て¥たのしむ。¥すべて¥しよだう/の¥すたれ/たる/を¥おこし¥いちじ/の¥ぜん/をも¥しやうせ/られ/しか/ば¥じしや¥ぜんりつ/の¥はんじやう¥ここ/に¥とき/を¥え/たり。¥けんみつ¥じゆだう/の¥せきさい/も¥みな¥のぞみ/を¥たつせ/り。

P24¥

まこと/に¥てん/に¥うけ/たる¥せいしゆ¥ち/に¥ほうぜ/る¥めいくん/なり/と¥その¥とく/を¥しようじ¥その¥くわ/に¥ほこら/ぬ¥もの/は¥なかり/けり。¥

「きにんきゆうみん¥せぎやう/の¥こと」3¥

2.せきところ¥ちやうじ/の¥こと¥

それ¥しきやう¥しちだう/の¥せきところ/は¥くに/の¥たいきん/を¥しら/しめ¥とき/の¥ひじやう/を¥いましめ/ん¥ため/なり。¥しかるに¥いま/は¥ろうだん/の¥り/に−よつて¥しやうばい¥わうらい/の¥つひえ¥ねんぐ¥うんそう/の¥わづらひ¥あり/とて¥おほつ¥くずは/の¥ほか/は¥ことごとく¥しよしよ/の¥しんせき/を¥とどめ/らる。P38¥また¥げんかうにねん/の¥なつ¥たいかん¥ち/を¥からし¥でんぷく/の¥ほか¥ひやくり/の¥あひだ¥むなしく¥せきど/のみ¥あつ/て¥せいべう¥なし。¥がへう¥ちまた/に¥みち/て¥きにん¥ち/に¥たふる。¥こんねん¥ぜに¥さんびやく/を−もつて¥あは¥いつとう/を¥かふ。¥きみ¥はるか/に

P25¥

てんが/の¥ききん/を¥きこしめし¥ちん/が¥ふとく¥あら/ば¥てん¥われ¥いちじん/を¥つみす/べし。¥じようみん¥なにの¥とが¥あつ/てか¥この¥わざはひ/に¥あへ/る/と¥みづから¥ていとく/の¥てん/に¥そむけ/る¥こと/を¥なげきおぼしめし¥あさがれひのぐご/を¥とどめ/られ¥きにんきゆうみん/の¥せぎやう/に¥ひか/れ/ける/こそ¥ありがたけれ。¥これ¥なほ¥ばんじん/の¥うゑ/を¥たすく/べき/に¥あら/ず/とて¥けびゐしのべつたう/に¥おほせ/て¥ふいう/の¥ともがら/が¥りばい/の¥ため/に¥たくはへつめ/る¥べいこく/を¥てんけんし/て¥にでうまち/に¥かりや/を¥たて/させ¥けんし¥みづから¥ことはり/て¥あたひ/を¥さだめ/て¥うら/せ/らる。¥されば¥しやうばい¥ともに¥り/を¥え/て¥ひと¥みな¥くねん/の¥たくはへ¥ある/が/ごとし。¥そしよう/の¥ひと¥いでき/たる¥とき/は、¥しも/の¥じやう¥かみ/に¥つうぜ/ざる¥こと/もや¥あら/ん/とて¥きろくところ/へ¥しゆつぎよ¥なつ/て¥ぢきに¥うつたへ/を¥きこしめし、¥あきらか/に¥りひ/を¥けつだんせ/られ/しか/ば¥ぐぜい/の¥うつたへ¥たちまちに¥とどまつ/て¥けいべん/も¥くちはて¥かんこ/も¥うつ¥ひと¥なかり

P26

/けり。¥まこと/に¥ちせいあんみん/の¥まつりごと¥もし¥きかう/に−ついて¥これ/を¥みれ/ば¥めいせいあせい/の¥さい/とも¥しようじ/つ/べし。¥ただ¥うらむ¥らくは¥せい/の¥くわん¥は/を¥おこなひ¥そひと¥ゆみ/を¥わすれ/し/に¥えいりよ¥すこしく¥に/たる¥こと/を。¥これ¥すなはち¥さうさう/は¥いつてん/を¥あはす/と¥いへ/ども¥しゆぶん/は¥さんさい/を¥こえ/ざる¥ゆゑん/なり。¥

「さねかぬこう/の¥むすめ¥こうひ/に¥そなは/る¥こと」4¥

3.りつこう/の¥こと¥つけたり¥さんみどのおんつぼね/の¥こと¥

ぶんぽうにねん¥はちぐわつみつか¥のちのさいをんじのだいじやうだいじんさねかぬこう/の¥おんむすめ¥こうひのくらゐ/に¥そなはつ/て¥こきでん/へ¥いら/せ¥たまふ。¥この¥いへ/に¥にようご¥たて/られ/たる¥こと¥すでに¥ごだい¥これ/も¥しようきう¥いご¥さがみのかみ¥だいだい¥さいをんじのいへ/を¥そんすうせ/しか/ば¥いつか¥はんじやう¥あたかも¥てんが/の¥じぼく/を¥おどろかせ/り。¥されば¥きみ/も¥くわんとう/の¥きこえ¥よろしかるべし/と¥おぼしめさ/れ/て¥とりわけ¥りつこう/の¥ごさた/も¥あり/ける/にや。¥おんよはひ¥すでに¥じはち¥きんけいしやう/の¥もと/に¥かしづか/れ/て¥ぎよくろうでん/の¥うち/に¥いら/せ¥たまへ/ば¥えうたう/の¥はる/に¥いため/る¥よそほひ¥すいりう/の¥かぜ/を¥ふくめ/る¥おんかたち¥もうしやう¥せいし/も¥おもて/を¥はぢ、

P27¥

がうじゆ¥せいきん/も¥かがみ/を¥おほふ¥ほど/なれ/ば¥きみ/の¥おんおぼえ/も¥たぐひ¥あら/じ/と¥おぼえ/し/に¥くんおん¥は/よりも¥うすかり/しか/ば¥いつしやう¥むなしく¥ぎよくがん/に¥ちかづか/せ¥たまは/ず。¥しんきゆう/の¥うち/に¥むかつ/て¥はる/の¥ひ/の¥くれがたき¥こと/を¥なげき¥あき/の¥よ/の¥ながき¥うらみ/に¥しづま/せ¥たまふ。¥きんをく/に¥ひと¥なく/して¥かうかう/たる¥のこんのともしび/の¥かべ/に¥そむけ/る¥かげ¥くんろう/に¥か¥きえ/て¥せうせう/たる¥くらき¥あめ/の¥まど/を¥うつ¥こゑ¥もの¥ごと/に¥みな¥おんなみだ/を¥そふる¥なかだち/と¥なる。¥ひと¥うまれ¥ふじん/の¥み/と¥なる¥こと¥なかれ¥ひやくねん/の¥くらく/は¥たにん/に¥よる/と¥はくらくてん/の¥かき/たり/し/も¥ことわり/なり/と¥おぼえ/たり。¥

「きんかど/の¥むすめ¥ごちようあい/の¥こと」5¥

その¥ころ¥あののちゆうじやうきんかど/の¥むすめ/に¥さんみどののみつぼね/と¥まうし/ける¥にようばう¥ちゆうぐう/の¥おんかた/に¥さぶらは/れ/ける/を¥きみ¥ひとたび¥ごらんぜ/られ/て¥た/に¥こと/なる¥おんおぼえ/なり。¥さんぜん/の¥ちようあい/は¥いつしん/に¥あり/しか/ば¥りくきゆう/の¥ふんたい/も¥がんしよく¥なき/が/ごとく/なり/き。¥すべて¥さんふじん¥きうひん¥にじふしち/の¥せいふ¥はちじふいち/の¥にようご・P40¥および¥こうきゆう/の¥びじん¥〔がふ/の¥ぎぢよ〕/と¥いへ/ども¥てんし¥こめん/の¥おんこころ/を¥つけ/られ/ず。¥ただ¥しゆえんいうたい/の¥ひとり¥よく¥これ/を¥いたすP28/のみに¥あら/ず。¥けだし¥ぜんげうべんねい¥えいし/に¥さきだつ/て¥き/を¥あらそひ/しか/ば¥はな/の¥もと/の¥はる/の¥あそび¥つき/の¥まへ/の¥あき/の¥えん¥がすれ/ば¥てぐるま/を¥ともに¥し¥みゆき−すれ/ば¥せき/を¥もつぱらに¥し¥たまふ。¥これ/より¥くんわう¥あさまつりごと/を¥し¥たまは/ず。¥つひに¥じゆごうのせんじ/を¥くださ/れ/しか/ば¥ひと¥みな¥くわうごうげんひ/の¥おもひ/を¥なせ/り。¥たちまちに¥みる¥くわうさい/の¥はじめて¥もんこ/に¥なる¥こと/を。¥この¥とき/に¥てんが/の¥ひと¥だん/を¥しやうぜ/ん¥こと/を¥かろく¥し/て¥ぢよ/を¥しやうぜ/ん¥こと/を¥おもんぜ/り。¥されば¥おんまへ/の¥ひやうぢやう¥ざつそ/の¥さた/までも¥じゆごう/の¥ごこうじゆ/とだに¥いひ/て/けれ/ば¥しやうけい/も¥ちゆう¥なく/て¥しやう/を¥あたへ¥ぶぎやう/も¥り¥ある/を¥ひ/と¥せ/り。¥くわんしよ/は¥たのしん/で¥いんせ/ず¥かなしん/で¥やぶら/ず。¥しじん¥とつ/て¥こうひ/の¥とく/と¥す。¥いかんか¥せ/ん¥けいせいけいこく/の¥らん¥いま/に¥あり/ぬ/と¥おぼえ/て¥あさましかり/し¥ことども/なり。¥

4.ちよわう/の¥おんこと¥

〔しゆうし/の¥くわ¥おこなは/れ/て〕¥くわうごうげんひ/の¥ほか¥くんおん/に¥ほこる¥きうぢよ/は¥はなはだ¥おほかり/しか/ば¥みやみや¥しだいに¥ごたんじやう¥あつ/て¥じふろくにん/までぞ¥ましまし/ける。¥なかにも¥だいいちのみや¥なかつかさのきやうのしんわう/は¥みこひだりのだいなごんためよのきやう/の¥むすめ¥ぞうじゆさんみためこ/の¥おんはら/にて¥おはせ/し/を¥よしだのないだいじんさだふさこう¥やしなひぎみ/に¥し¥たてまつり/しか/ば¥しがくのとし/の¥はじめ/より¥りくぎのみちP41/に

P29¥

ちやうぜ/させ¥たまへ/り。¥されば¥とみのをがは/の¥きよき¥ながれ/を¥くみ¥あさかやま/の¥ふるき¥あと/を¥ふん/で¥てうふうろうげつ/に¥おんこころ/を¥いたま/しめ¥たまふ。¥だいにのみや/も¥おなじ¥おんはら/にてぞ¥ましまし/ける。¥あげまき/の¥おんとき/より¥めうほふゐんのもんぜき/に¥ごにふしつ¥あり/て¥しやくしの−をしへ/を¥うけ/させ¥たまふ。¥これ/も¥ゆかさんみつ/の¥ひま/には¥かだうすき/の¥おんもてあそび¥あり/しか/ば¥かうそだいし/の¥きうげふ/にも¥はぢ/ず¥じちんくわしやう/の¥ふうが/にも¥はた¥こえ/たり。¥だいさんのみや/は¥みんぶのきやうさんみどの/の¥おんはら/なり。¥ごえうち/の¥おんとき/より¥りこんそうめい/に¥ましまし/しか/ば¥きみ¥おんくらゐ/をば¥この¥みや/にこそ/と¥おぼしめし/たり/しか/ども¥ごちせい/の¥おんこと/は¥だいかくじどのかた/と¥ぢみやうゐんどのかた/と¥かはるがはる¥もた/せ¥たまふ/べし/と¥ごさがのゐん/の¥おんとき/より¥さだめ¥まうさ/れ/しか/ば¥こんど/の¥とうぐう/をば¥ぢみやうゐんかた/に¥たて¥まゐらせ/らる。¥てんが/の¥こと¥なに/と¥なく、¥みな¥くわんとう/の¥はからひ/として¥えいりよ/にも¥ゆだね/られ/ざり/しか/ば¥ごげんぶく/の¥ぎ/を¥あらため/られ¥なしもとのもんぜき/に¥ごにふしつ¥あり/て¥じようちんしんわう/の¥ごもんてい/と¥なら/せ¥たまひ/に/けり。¥いつ/を¥きい/て¥じふ/を¥さとる¥ごきりやう¥よ/に¥また¥たぐひ¥なかり/しか/ば¥いちじつゑんどん/の¥はな¥にほひ/を¥けいけい/の¥かぜ/に¥わかち/て、¥さんだいそくぜ/の¥つき/の¥ひかり/を¥ぎよくせん/の¥ながれ/に¥ひたせ/り。¥されば¥きえ/な/ん/と¥する¥ほつとう/を¥かかげ¥たえ/な/ん

P30

/と¥する¥ゑみやう/を¥つが/む¥こと¥ただ¥この¥もんしゆ/の¥おんとき/なる/べし/と¥いつさん¥たなごころ/を¥あはせ¥よろこび¥きうゐん¥かうべ/を¥かたぶけ¥あふぎ¥たてまつる。¥だいしのみや/も¥おなじ¥おんはら/にて¥おはし/ける。¥これ/は¥しやうごゐんのにほんしんわう/の¥ごふてい/にて¥おはせ/しか/ば¥ほつすい/を¥みゐ/の¥ながれ/に¥くみ¥きべつ/を¥じそん/の¥あかつき/に¥ごす。P42¥この¥ほか¥ちよくん¥ちよわう/の¥えらび¥ちくゑん¥せうてい/の¥そなへ¥まこと/に¥わうげふ¥さいこう/の¥うん¥ふくそ¥ちやうきう/の¥もとゐ¥とき/を¥え/たり/とぞ¥みえ/たり/ける。¥

「とうい¥てうぶく/の¥こと」6¥

5.ちゆうぐう¥ごさん¥おんいのり/の¥こと¥つけたり¥としもと¥いつはつ/て¥ろうきよ/の¥こと¥

げんかうにねん¥はる/の¥ころ/より¥ちゆうぐう¥ごくわいにん/の¥おんいのり/とて¥しよじ¥しよさん/の¥きそう¥かうそう/を¥めさ/れ/て¥さまざま/の¥だいほふ¥ひほふ/を¥おこなは/せ/らる。¥なかにも¥ほつしようじ/の¥ゑんくわんしやうにん¥をの/の¥もんくわんそうじやう¥ににん/は¥べつちよく/を¥うけ/て¥きんけつ/に¥だん/を¥かまへ¥ぎよくたい/に¥ちかづき¥たてまつり/て¥かんたん/を¥くだき/てぞ¥いのら/れ/ける。¥ぶつげん¥こんりん¥ごだんのほふ¥いつしゆくごへんくじやくきやう¥しちぶつやくし¥〔しじやくこう〕¥うすさま・へんじやうなんし〔のほふ〕、¥ごだいこくざう・¥ろくくわんおん¥ろくじかりん¥かりていも¥はちじもんじゆ¥ふげん・えんみやう¥こんがうどうじのほふ、のこる

P31¥

ところ¥なく¥じゆせ/られ、¥ごま/の¥けぶり/は¥たいゑん/に¥みち¥しんれい/の¥こゑ/は¥えきでん/に¥ひびき¥いか/なる¥あくま¥をんりやう/なり/とも¥しやうげ/を¥なしがたし/とぞ¥みえ/たり/ける。¥かやう/に¥こう/を¥つみ¥ひ/を¥かさね¥おんきたう¥せいぜい/を¥つくさ/れ/けれ/ども¥さんねん/まで¥ごさん/の¥おんこと/は¥なかり/けり。¥のち/に¥しさい/を¥たづぬれ/ば¥くわんとう¥てうぶく/の¥ため¥こと/を¥ちゆうぐう/の¥ごさん/に¥よせ¥かやう/の¥ひほふ/を¥しゆせ/られ/ける/とかや。¥

「としもと¥くわんじやう/を¥よみあやまり/の¥こと」7¥

これほど/の¥ちようじ/を¥おぼしめしたち/けれ/ども、¥〔しよしん/の¥いけん/をも¥うかがひ/たく¥おぼしめし/けれ/ども〕¥こと¥たぶんP43/に¥および/な/ば¥〔ぶけ/に〕¥もれきこゆる¥こと/も/こそ¥あれ/と¥おぼしめさ/れ/ける¥あひだ¥しんりよちくわ/の¥らうしん¥きんじ/の¥ひとびと/にも¥おほせあはせ/らるる¥こと/も¥なし。¥ただ¥ひののちゆうなごんすけとも・

P32¥

くらんどのうせうべんとしもと¥しでうのちゆうなごんたかすけ¥ゐんのだいなごんもろかたのきやう・¥へいさいしやうなりすけ/ばかりに¥ひそかに¥おほせあはせ/られ/て¥さりぬべき¥つはものども/を¥めさ/れ/ける/に¥にしごりのはんぐわん・¥あすけのじらうしげのり¥ほくれい/の¥しゆととう¥せうせう¥ちよくぢやう/に¥おうじ/けり。¥かの¥としもと/は¥るいえふ/の¥じゆげふ/を¥つぎ、¥さいがく¥いうちやう/なり/しか/ば¥けんしよく/に¥めしつかは/れ/て¥くわん¥らんだい/に¥いたり¥しよく¥しきじ/を¥つかさどれ/り。¥しかるあひだ¥しゆつし¥ことしげう/して¥ちうさく¥ひま¥なかり/けれ/ば¥いかん/とも/して¥しばらく¥ろうきよし/て¥むほん/の¥けいりやく/を¥めぐらさ/ん/と¥おもひ/ける¥ところに¥さんもん¥よかは/の¥しゆと¥くわんじやう/を¥きんてい/に¥ささげ/て¥うつたふる¥こと¥あり。¥としもと¥そうじやう/を¥ひらい/て¥よみまうし/ける/が¥あやまり/たる¥てい/にて¥りようごんゐん/を¥まんごんゐん/とぞ¥よみ/たり/ける。¥ざちゆう/の¥しよきやう¥これ/を¥きい/て¥〔め/を¥あはせ/て〕¥さう/の¥じ/をば¥へん/に¥つい/ても¥つくり/に¥つい/ても¥もく/とぞ¥よむ

P33

/べかり/ける/と¥おのおの¥め/を¥あはせ/てぞ¥わらは/れ/ける。¥としもと¥おほい/に¥はぢ/たる¥きしよく/にて¥おもて/を¥あかめ/て¥たいしゆつす。¥それ/より、「¥ちじよく/に¥あひ/て¥ろうきよす」/と¥ひろうし/て¥はんねん/ばかり¥しゆつし/を¥やめ¥やまぶし/の¥かたち/に¥み/を¥かへ¥やまと¥かはち/に¥ゆき/て¥じやう/に¥なり/ぬ/べき¥ところどころ/を¥みおき¥とうごく¥さいごく/に¥くだつ/て¥くに/の¥ふうしよく¥ひと/の¥ぶんげん/をぞ¥うかがひみ/られ/ける。P44¥6.ぶれいかう/の¥こと¥つけたり¥げんゑ¥ぶんだん/の¥こと¥ここに¥みののくに/の¥ぢゆうにん/に¥ときはうきのじふらう〔よりさだ〕¥たぢみしらうじらう〔くになが〕/と¥いふ¥もの¥あり。¥ともに¥せいわげんじ/の¥こういん/として¥ぶよう/の¥きこえ¥あり/けれ/ば¥すけとものきやう¥さまざま/の¥えん/を¥たづね/て¥むつびちかづか/れ/けり。¥ほういう/の¥まじはり¥すでに¥あさから/ざり/けれ/ども¥これほど/の¥いちだいじ/を¥さうなく¥しらせ/ん¥こと/は¥いかが¥ある/べかる/らん/と¥おもは/れ/けれ/ば¥なほも¥よくよく¥その¥こころ/を¥うかがひみ/ん/が¥ため/に¥ぶれいこう/と¥いふ¥こと/をぞ

P34¥

はじめ/られ/ける。¥その¥にんじゆ/には¥ゐんのだいなごんもろかた¥しでうのちゆうなごんたかすけ¥とうゐんさゑもんのかみさねよ¥くらんどのうせうべんとしもと¥だてのさんみいうが¥しやうごゐんちやうのほふげんげんき¥あすけのじらうしげのり・¥ときはうきのじふらうよりかず・¥おなじくさこんくらんどよりなほ・¥たぢみ〔しらう〕じらう〔くになが〕とう/なり。¥その¥けうくわいいういん/の¥てい¥けんもん¥じぼく/を¥おどろかす。¥けんぱい/の¥しだい¥じやうげ/を¥いは/ず¥をのこ/は¥えぼし/を¥ぬい/で¥もとどり/を¥はなち¥ほふし/は¥ころも/を¥き/ず/して¥びやくえ/なり。¥とし¥じふしちはち¥はたち/ばかり/なる¥をんな/の¥みめかたち¥いつくしく¥はだへ¥こと/に¥きよらか/なる/を¥にじふよにん¥さいみ/の¥ひとへ/ばかりを¥きせ/て¥しやく/を¥とら/せ/たれ/ば¥ゆき/の¥はだへ¥すきとほり/て¥たいえき/の¥ふよう¥あらた/に¥みづ/を¥いだし/たる/に¥こと/なら/ず。¥さんかい/の¥ちん/を¥つくし¥びしゆ/を¥いづみ/の/ごとく¥たたへ/て¥あそびたはぶれ¥まひうたふ。¥その¥あひだ/には¥ただ¥とうい/を¥ほろぼす/べき¥くはだて/の¥ほか/は¥たじなし。¥

「げんゑそうづ¥だんぎ/の¥こと」8

¥そのこととなく¥つね/に¥くわいがふせ/ば¥ひと/の¥おもひとがむる¥こと/もこそ¥あれ/とて¥こと/を¥ぶんだん/に¥よせ/ん/が¥ため/に¥その¥ころ¥さいかく¥ぶさう/の¥きこえ¥あり

P35

/ける¥げんゑそうづ/と¥いふ¥ぶんじや/を¥しやうじ/て¥しやうれいぶんじふ/のP45¥だんぎ/をぞ¥せ/させ/ける。¥かの¥そうづ¥むほん/の¥くはだて/とは¥ゆめ/にも¥しら/ず¥くわいがふ/の¥ひ¥ごと/に、¥その¥せき/に¥のぞん/で¥げん/を¥だんじ¥り/を¥わかつ。¥かの¥ぶんじふ/に¥しやうれい¥てうじう/に¥おもむく/と¥いふ¥ちやうへん¥あり。¥この¥ところ/に¥いたつ/て¥だんぎ/を¥きく¥ひとびと¥これ/は¥みな¥ふきつ/の¥しよ/なり/けり。¥ごし¥そんし¥りくたう¥さんりやく/なんどこそ¥しかるべき¥たうよう/の¥ぶん/なれ/とて¥しやうれいぶんじふ/の¥だんぎ/をば¥やめ/て/けり。¥この¥かんしやうれい/と¥まうす/は¥ばんたう/の¥すゑ/に¥いで/て¥ぶんさい¥いうちやう/の¥ひと/なり/けり。¥し/は¥としみ¥りたいはく/に¥かた/を¥ならべ¥ぶんしやう/は¥かん¥ぎ¥しん¥そう/の¥あひだ/に¥けつしゆつせ/り。¥かれ/が¥いうし/に¥かんしやう/と¥いふ¥もの¥あり。¥これ/は¥ぶんがく/をも¥たしなま/ず¥しへん/にも¥たづさはら/ず¥ただ¥だうし/の¥じゆつ/を¥まなん/で¥ぶゐ/を¥わざ/と¥し¥ぶじ/を¥こととす。¥あるとき¥しやうれい¥かんしやう/に¥むかつ/て¥まうし/ける/は¥なんぢ¥てんち/の¥うち/に¥くわせいし/て¥じんぎ/の¥ほか/に¥せうえうす。¥これ¥くんし/の¥はづる¥ところ¥せうじん/の¥〔もつぱら/と〕¥する¥ところ/なり。¥われ¥つね/に¥なんぢ/が¥ため/に¥これ/を¥かなしむ¥こと¥せつ/なり/と¥けうくんし/けれ/ば¥かんしやう¥おほい/に¥あざわらつ/て¥まうし/ける/は、「¥じんぎ/は¥たいだう/の¥すたるる¥ところ/に¥いで¥がつけう/は¥たいぎ/の¥おこる¥とき/に¥さかん/なり。¥われ¥ぶゐ

P36

/の¥さかひ/に¥いういうし/て¥ぜひ/の¥ほか/に¥じとくす。¥されば¥しんさい/の¥ひぢ/を¥さい/て¥こちゆう/に¥てんち/を¥かくし/て、¥ざうくわ/の¥たくみ/を¥うばつ/て¥きつり/に¥さんせん/を¥そばたつ。¥かへつて¥かなしむ¥らくは¥こう/の¥ただ¥こじん/の¥さうはく/を¥あまなつ/て¥むなしく¥いつしやう/を¥くく/の¥うち/に¥あやまり¥たまふ¥こと/を」/と¥こたへ/けれ/ば¥しやうれい¥かさねて¥いはく、「¥なんぢ/が¥いふ¥ところ¥われ¥いまだ¥しんぜ/ず。¥いま¥すなはち¥ざうくわ/の¥たくみ/を¥うばふ¥こと/を¥え/ん/や/と¥とふ/に¥かんしやう¥こたふる¥こと¥なう/して¥まへ/に¥おき/たる¥るり/の¥ぼん/を¥うちうつぶせ/て¥やがて¥また¥ひきあふのけ/たる/を¥みれP46/ば¥こつぜん/と/して¥へきぎよく/の¥ぼたんのはな/の¥せんけん/たる¥にし¥あり。¥しやうれい¥おどろき/て¥これ/を¥みる/に¥はな/の¥なか/に¥きんじ/に¥かけ/る¥いちれん/の¥く¥あり。¥

くも¥しんれい/に¥よこたはつ/て¥いへ¥いづく/にか¥ある、¥

ゆき¥らんくわん/に¥ようし/て¥むま¥すすま/ず。¥

しやうれい¥ふしぎ/の¥おもひ/を¥なし¥これ/を¥よん/で¥さいさんえいぎんする/に¥く/の¥いうみえんちやう/なる¥ていせい/のみ¥あつ/て¥その¥おもむき¥らくちやく/の¥ところ/を¥しりがたし。¥て/に¥とり¥これ/を¥み/ん/と¥すれ/ば¥こつぜんと/して¥きえうせ/ぬ。¥これ/よりしてこそ¥かんしやう¥せんじゆつのみち/を¥え/たり/とは¥てんが/の¥ひと/に¥しら/れ/けれ。

P37¥

その¥のち¥しやうれい¥ぶつぽふ/を¥やぶつ/て¥じゆけう/を¥たつとば/る/べき¥よし¥そうじやう/を¥たてまつり/ける/に−よつて¥てうじう/へ¥ながさ/る。¥ひ¥くれ¥むま¥なづん/で¥せんど¥ほどとほし。¥はるか/に¥こきやう/の¥かた/を¥かへりみれ/ば¥しんれい/に¥くも¥よこたはつ/て¥き/つ/らん¥かた/も¥おぼえ/ず。¥いたん/で¥ばんじん/の¥さか/に¥のぼれ/ば¥らんくわん/に¥ゆき¥みち/て¥ゆく/べき¥すゑ/の¥みち/も¥なし。¥しんだい¥あゆみ/を¥うしなつ/て¥かうべ/を¥めぐらす¥ところに¥いづく/より¥き/たる/とも¥おもは/ぬ/に、¥かんしやう¥ぼつぜんと/して¥かたはら/に¥あり。¥しやうれい¥よろこん/で¥むま/より¥おり¥かんしやう/が¥そで/を¥ひかへ/て¥なみだ/の¥うち/に¥まうし/ける/は¥まへ/の¥とし¥へきぎよく/の¥はな/の¥なか/に¥みえ/たり/し¥いちれん/の¥く/は¥なんぢ¥われ/に¥あらかじめ¥させん/の¥うれへ/を¥つげしらせ/ける/なり。¥いま¥また¥なんぢ¥ここ/に¥きたれ/り¥はかりしり/ぬ¥われ¥つひに¥たつきよ/に¥しうしし/て¥かへる¥こと/を¥え/じ/と。¥さいくわい¥ごする¥こと¥なう/して¥ゑんべつする¥こと¥いま/に¥あり。¥あに¥かなしみ/に¥たえ/ん/や/とて¥さき

P38

/の¥いちれん/に¥ろつく/を¥つい/で¥〔はちく¥いつしゆ/と¥なし/て〕¥かんしやう/に¥あたふ。¥

いつほう¥てう¥そうす¥きうちよう/の¥てん¥

ゆふべ/に¥しやうやう/に¥へんせ/らる¥みち¥はつせん¥

もと/は¥せいめい/の¥ため/に¥へいじ/を¥のぞか/ん¥

あに¥すいきう/を−もつて¥ざんねん/を¥をしま/ん/や¥

くも¥しんれい/に¥よこたはつ/て¥いへ¥いづく/にか¥ある¥

ゆき¥らんくわん/を¥ようし/て¥むま¥すすま/ず¥

しんぬ¥なんぢ¥とほく¥きたる¥すべからく¥こころある/べし¥

よし¥わが¥こつ/を¥しやうかう/の¥へん/に¥をさめ/ん/や¥

かんしやう¥この¥し/を¥そで/に¥いれ/て¥なくなく¥とうざい/へ¥わかれ/に/けり。¥まこと/なる/かな¥ちじん/の¥めんぜん/に¥ゆめ/を¥とか/ず/と¥いふ¥こと/を。¥〔この¥だんぎ/を〕¥きき/ける¥ひとびと¥いみおもひ/ける/こそ¥おろか/なれ。¥

「とき¥たぢみら¥うちじに/の¥こと」9¥

7.よりかず¥かへりちゆう/の¥こと¥

むほんにん/の¥よたう¥ときのさこんのくらんどよりなほ/は¥ろくはら/の¥ぶぎやう¥さいとうたらうざゑもん〔のじよう〕としゆき/が¥そくぢよ/に¥かし/て¥さいあいし/たり/ける/が¥よのなか¥すでに

P39¥

みだれ/て¥かつせん¥いでき/て/は¥せんにひとつ/も¥うちじにせ/ず/と¥いふ¥こと¥ある/べから/ず/と¥おもひ/ける¥あひだ¥かねて¥なごり/や¥をしかり/けん¥ある¥よ/の¥ねざめ/の¥ものがたり/に¥いちじゆ/の¥かげ/に¥より¥おなじ¥ながれ/を¥くむ/も¥みな¥たしやう/の¥えん¥あさから/ず/と/こそ¥うけたまはれ。¥いはんや¥あひなれ¥たてまつつ/て¥すでに¥みとせ/に¥なり/ぬ。¥なほざり/なら/ぬ¥こころざし/の¥ほど/をば¥けしき/に¥つけ¥をり/に¥ふれ/て¥おもひしり¥たまひ/ぬ/らん¥さても¥さだめなき¥にんげん/の¥ならひ¥あひあふ¥なか/の¥ちぎり/なれ/ば¥いま/も¥もし¥わが¥み¥はかなく¥なり/ぬ/と¥きき¥たまは/ば¥なから/ん¥あと/までも¥ていぢよ/の¥こころ/を¥うしなは/で¥わが¥のちのよ/を¥とひ¥たまへ。¥にんげん/に¥かへら/ば¥ふたたび¥ふうふ/の¥ちぎり/を¥なし、¥じやうど/に¥うまる/れ/ば¥おなじ¥はちすのうてな/に¥はんざ/を¥わけ/て¥まつ/べし/と、P48¥そのこととなく¥かきくどき¥なみだ/を¥ながし/てぞ¥まうし/ける。¥をんな¥つくづくと¥きき、¥あやし/や¥なにごと/の¥はべる/ぞや。¥あす/までの¥ちぎり/の¥ほど/も¥しら/ぬ¥うき¥なか/に¥のちのよ/までの¥かねごと/は¥わすれ/ん/とての¥なさけ/かや。¥さらでは¥かかる/べし/とも¥おぼえ/ず/とて、¥なきうらん/で¥とひ/けれ/ば¥をつと/は¥こころ¥あさく/も¥さればよ¥われ¥ふりよ/の¥ちよくめい/を¥かうむつ/て¥きみ/に¥たのま/れ¥たてまつる¥あひだ¥じする/に¥みち¥なく/して¥むほん/に¥くみし/ぬる¥あひだ¥せんにひとつ/も¥いのち/の¥ながらへ/んずる¥こと/は、¥あぢきなく¥ぞんずる¥ほどに、

P40¥

〔ちかづく¥わかれ/の¥かなしさ/に〕¥かねて/は¥かやう/に¥まうす/なり。¥この¥こと¥あなかしこ¥ひと/に¥しら/せ¥たまふ/な/と¥よくよく¥くち/をぞ¥かため/ける。¥かの¥にようばう¥こころ¥さかしき¥もの/なり/けれ/ば¥つとに¥おき/て¥つくづくと¥この¥こと/を¥あんずる/に¥きみ/の¥ごむほん¥こと¥なら/ず/は¥たのみ/たる¥をつと¥たちまちに¥ちゆうせ/らる/べし。¥もし¥また¥ぶけ¥ほろば/ば¥わが¥しんるい¥たれか¥いちにん/も¥のこる/べき。¥さらば¥この¥こと/を¥ちち¥としゆき/に¥かたつ/て¥さこんのくらんど/を¥かへりちゆう/の¥もの/に¥なし¥これ/をも¥たすけ¥しんるい/をも¥あんをん/なら/しめ/ん/と¥おもひ/て¥いそぎ¥ちち/が¥もと/に¥ゆき¥しのびやか/に¥この¥よし/を¥ありのままに/ぞ¥かたり/ける。¥さいとう¥おほい/に¥おどろき/て、¥やがて¥〔さこんの〕くらんど/を¥よびよせ/て、¥かかる¥ふしぎ/を¥うけたまはる/は、¥まこと/に/て¥さうらふ/やらん。¥いまのよ/に¥かやう/の¥こと/を¥おもひくはだて¥たまは/ん/は¥いし/を¥いだい/て¥ふち/に¥いる¥もの/にて¥さうらふ/べし。¥もし¥たにん/の¥くち/より¥もれ/な/ば¥われら/に¥いたる/まで/も、¥みな¥ちゆうせ/らる/べく¥さうらへ/ば¥いそぎ¥としゆき/に¥ごへん/の¥つげしらせ/たる¥よし/を¥ろくはらどの/に¥まうし/て¥ともに¥その¥とが/を¥のがれ/ん/と¥おもふ/は¥いかんか¥はからひ¥たまふP49/と¥とひ/けれ/ば¥これほど/の¥いちだいじ/を¥をんな/に¥しらする¥ほど/の¥こころね/なれ/ば、¥なじかは¥ぎやうてんせ/ざる/べき。¥〔この¥こと/は¥どうみやう¥よりさだ¥たぢみしらうじらう/が¥すすめ/に−よつて¥どうい¥つかまつり/て¥さうらふ。〕¥ただ¥ともかくも¥み/の

P41¥

とが/を¥たすかる¥やう/に¥おんぱからひ¥さうらへ/とぞ¥まうし/ける。¥さるほどに¥よ¥いまだ¥あけ/ざる/に¥さいとう¥いそぎ¥ろくはら/へ¥まゐつ/て¥ことのしさい/を¥くはしく¥つげまうし/けれ/ば¥すなはち¥〔とき/を¥かへ/ず¥かまくら/へ¥はやむま/を¥たて/て〕¥きやうぢゆう¥らくぐわい/の¥ぶしども/を¥ろくはら/へ¥めしあつめ/て¥まづ¥ちやくたう/をぞ¥つけ/られ/ける。¥その¥ころ¥せつつのくに¥くずは/と¥いふ¥ところ/に¥ぢげにんら、¥ほんじよ/の¥だいくわん/を¥そむき¥かつせん/に¥およぶ¥こと¥あり。¥かの¥ほんじよ/の¥ざつしやう/を¥ろくはら/の¥さた/として¥しやうけ/に¥しすゑ/ん¥ため/に¥しじふはちかしよ/の¥かがり¥ならびに¥ざいきやうにん/を¥もよほさ/るる/の¥よし/を¥ひろうせ/らる。¥これ/は¥むほん/の¥ともがら/を¥のがさ/じ/が¥ため/の¥はかりごと/なり。¥とき/も¥たぢみ/も¥わが¥みのうへ/とは¥おもひよら/ざり/けれ/ば、¥みやうにち/は¥くずは/へ¥むかふ/べき¥ようい/にて¥みな¥おの/が¥しゆくしよ/にぞ¥ゐ/たり/ける。¥さるほどに¥あくれ/ば¥〔げんとくぐわんねん〕¥くぐわつじふくにち/の¥うのこく/に¥ぐんぜい¥うんか/の/ごとく¥ろくはら/へ¥はせあつまる。¥をぐしのさぶらうさゑもんのじようのりゆき¥やまもとくらうときつな¥ごもん/の¥はた/を¥たまはり¥〔うつて/の¥たいしやう/を¥うけたまはつ/て〕¥ろくでうがはら/へ¥うちいで/て、¥さんぜんよき/を¥ふたて/に¥わけ¥たぢみ/が¥しゆくしよ¥にしきのこうぢたかくら¥ときじふらう/が¥しゆくしよ¥さんでうほりかは/へぞ¥おしよせ/たる。¥ときつな¥かくては¥いかさま¥だいじ/の¥てき/を¥うちもらし/ぬ/と¥おもひ/ける/にや¥おほぜい/をば¥わざと¥さんでうがはら/に

P42¥

とどめ/て¥やまもとくらう¥ただ¥いつき¥ちゆうげん¥ににん/に¥なぎなた¥もた/せ/て¥しのびやか/に¥とき/が¥しゆくしよ/へ¥はせ/て¥ゆく。¥もんぜん/に¥むま/をば¥のりすて¥こもん/より¥うちP50/へ¥つと¥いり¥ちゆうもん/の¥かた/を¥みれ/ば¥とのゐし/ける¥ものども/よ/と¥おぼえ/て¥〔もののぐ〕¥たち¥かたな¥まくら/に¥とりちらし¥たかいびき¥かい/て¥ねいり/たる。¥むまや/の¥うしろ/を¥まはつ/て¥いづく/にか¥くけぢ/の¥ある/と¥みれ/ば¥うしろ/は¥みな¥ついぢ/にて¥もん/より¥ほか/は¥みち/も¥なし。¥さらば¥こころやすし/と¥おもひ/て¥きやくでん/の¥おく/なる¥ふたま/を¥さつと¥ひきあけ/たれ/ば¥ときのじふらう¥ただいま¥おき/たり/と¥おぼえ/て¥びんのかみ/を¥なであげ/て¥ゆひ/ける/が¥やまもとくらう/を¥きと¥み/て¥こころえ/たり/と¥いふ¥ままに、¥まくら/に¥たて/たる¥たち/を¥おつとつ/て、¥そば/なる¥しやうじ/を¥ふみやぶり¥むま/の¥きやくでん/へ¥をどりいで/て¥てんじやう/に¥たち/を¥うちつけ/じ/と¥はらひぎり/にぞ¥きり/たり/ける。¥ときつな/は¥わざと¥てき/を¥ひろには/へ¥おびきいだし、

P43¥

すきま¥あら/ば¥いけどら/ん/と¥こころざし/て¥うちはらひ/ては¥しさり、¥うけながし/ては¥とびのき¥ひとまぜ/も¥せ/ず¥たたかつ/て¥うしろ/を¥きと¥み/たれ/ば¥ごぢん/の¥おほぜい¥にのもん/より¥こみいつ/て¥どうおんに¥とき/を¥どつと¥つくる。¥ときのじふらう¥これ/を¥み/て、¥いけどら/れ/じ/とや¥おもひ/けん¥もと/の¥ねどころ/へ¥はしりかへつ/て¥はら¥じふもんじ/に¥かききつ/て¥きたまくら/にこそ¥ふし/たり/けれ。¥ちゆうもん/に¥ね/たり/つる¥わかたうども/も¥みな¥おもひおもひ/に¥うちじにし/て¥のがるる¥もの¥いちにん/も¥なかり/けれ/ば、¥くび/を¥とつ/て¥きつさき/に¥つらぬき¥やまもとくらうときつな/は¥これ/より¥ろくはら/へ¥はせさんず。¥たぢみ/が¥しゆくしよ/へは¥をぐしのさぶらうさゑもんのじようのりゆき/を¥さき/として¥さんぜんよき/にて¥おしよせ/たり。¥たぢみ/は¥よもすがら/の¥さけ/に¥ちんすいし/て¥ぜんご/も¥しら/ず¥ふし/たり/ける/が¥ときのこゑ/に¥おどろき/て¥これ/は¥なにごと/ぞ/と¥あわてさわぐ。¥あたり/に¥ふし/たる¥いうくん¥ものなれ/たる¥をんな/なり

P44

/けれ/ばまくら/なる¥よろひ/を¥とつ/て¥うちきせ¥うはおび¥つよく¥しめ/させ/て¥なほ¥ねいり/たる¥ものども/をぞ¥ひきおこし/ける。¥をがさはらまごろく¥けいせい/にP51¥おどろかさ/れ¥たち/ばかり¥おつとつ/て¥ちゆうもん/に¥はしりいで¥〔め/を¥すりすり〕¥もんぜん/を¥きつと¥みれ/ば¥くるまのわ/の¥はた¥ひとながれ¥ついぢ/の¥うへ/より¥みえ/たり。¥まごろく¥うち/へ¥はしり−いつ/て¥ろくはら/より¥うつて/を¥むけ/て¥さうらふ/ぞや。¥このあひだ/の¥ごむほん¥はや¥あらはれ/たり/と¥おぼえ¥さうらふ。¥めんめん¥おもひ−きら/せ¥たまへ/とて、¥はらまき¥とつ/て¥かた/に¥なげかけ¥にじふご¥さし/たる¥えびら/と¥しげどうのゆみ/とを¥ひつさげ/て¥もん/の¥うへ/なる¥やぐら/へ¥はしりあがり¥なかざし¥とつ/て¥うちつがひ¥さま/の¥いた¥はちじ/に¥ひらい/て¥あな¥ことごとし/の¥おほぜい/や。¥〔われら/が¥てがら/の¥ほど/こそ¥あらはれ/たれ¥そもそも〕¥うつて/の¥たいしやう/には¥たれ¥ひと/の¥むかは/れ/て¥さうらふ/ぞ。¥〔ちかづい/て〕¥や¥ひとつ¥うけ/て¥ごらんぜよ/と¥いふ¥ままに¥じふにそくみつぶせ/を¥ひきしぼり¥しばらく¥かため/て¥ひやうと¥はなつ。¥まつさきに¥すすん/だる¥かののしもつけのぜんじ/が¥わかたう/に¥きぬずりのすけふさ/が¥かぶと/の¥まつかう/より¥はちつけのいた/まで¥やさき¥しろく¥いとほし/て¥むま/より¥まつさかさま/に¥い/て¥おとす¥これ/を¥はじめ/として¥よろひ/の¥そで¥くさずり¥かぶと/の¥はち/とも¥いは/ず¥さしおろし/て¥おもふさま/に¥い/ける¥あひだ、¥おもて/に¥すすむ¥つはもの¥にじふしにん、¥たちまち/に¥や/の¥した/に¥い−おとす。¥いま¥ひとすぢ¥えびら/に¥のこつ/たる/を¥ひき−ぬい/て¥えびら/をば¥やぐら/の¥した/へ¥からりと¥なげ−

P45

おとし、¥この¥や¥ひとつ/をば¥

めいどのたび/の¥ようじん/に¥もつ/べし/とて¥こし/に¥さし¥につぽんいち/の¥がう/の¥もの¥むほん/に¥くみし¥じがいする¥ありさま¥みおき/て¥ごじつ/の¥ものがたり/に¥せよ/と¥かうじやう/に¥をめい/て¥たち/の¥きつさき/を¥くち/に¥ふくみ、¥やぐら/より¥〔さかさま/に〕¥とびおち¥つらぬか/れ/てこそ¥しに/に/けれ。¥この¥あひだ/に¥たぢみ/を¥はじめ/として¥いちぞく¥わかたう¥にじふよにん¥もののぐ¥ひしひしと¥さし−かため¥おほには/に¥をどりいで/て¥もん/の¥くわんのき/を¥さし/て¥まちかけ/たり。¥よせて/は¥うんか/の/ごとく/なれ/ども¥おもひきつ/たる¥ものども/が¥しにぐるひP52/を¥せ/ん/と¥ひきこもり¥しづまり−かへつ/て¥まつ/たり/けれ/ば、¥さうなく¥きつ/て¥いら/ん/と¥する¥もの/も¥なかり/ける¥ところに¥いとうひこじらう¥ふし¥きやうだい¥よつたり¥もん/の¥とびら/の¥やぶれ/たる¥ところ/より¥はう/て¥うち/へぞ¥いり/たり/ける。¥こころざし/の¥ほど/は¥たけけれ/ども¥まちうけ/たる¥てき/の¥なか/へ¥はう/て¥ぬけ−いり/たる¥こと/なれ/ば¥たたかふ/まで/の¥こと/も¥なく¥みな¥もん/の¥わき/にて¥うた/れ/に/けり。¥よせて¥これ/を¥み/て¥いよいよ¥ちかづく¥もの¥なかり/ける¥あひだ¥うち/より¥もん/の¥とびら/を¥おしあけ/て¥うつて/を¥うけたまはる¥ほど/の¥ひとたち/の¥まさなう/も¥みえ/られ¥さうらふ¥もの/かな。¥はや¥これ/へ¥おんいり¥さうらへ。¥われら/が¥くびども¥ひきでもの/に¥まゐらせ¥さうらは/ん/と¥はぢしめ/けれ/ば、¥よせて/の¥つはもの−ども¥これ/を¥きい/て、¥ごひやくよき¥むま/を¥のりはなつ/て¥〔かちだち/に¥なり〕¥おめい/て¥には/へ/ぞ

P46¥

こみいり/ける。¥たぢみしらうじらう、¥とても¥のがれ/じ/と¥おもひきつ/たる¥こと/なれ/ば¥いづく/へか¥ひとあし/も¥ひく/べき。¥にじふよにん/の¥ものども¥おほぜい/の¥まんなか/へ¥みだれいり¥おもて/も¥ふら/ず¥きつ/て¥まはる。¥さきがけ/の¥よせて¥ごひやくよにん¥さんざんに¥きりたて/られ、¥あらし/に¥このは/の¥ちる/が/ごとく、¥かたなびきに¥もんぜん/へ¥さつと¥ひい/て/ぞ¥いで/たり/ける。¥されども¥よせて/は¥おほぜい/なれ/ば¥せんぢん¥ひけ/ば¥ごぢん¥いれ−かへ、¥かけいれ/ば¥おひいだし、¥おひいだせ/ば¥かけいり、¥まく/つ¥まく/られ/つ、¥おつ−かへし/つ¥さんざん/に、¥たつのこく/の¥はじめ/より¥むまのこく/の¥をはり/まで¥ひ¥いづる¥ほど/に/ぞ¥たたかひ/たる。¥かやう/に¥おほて/の¥いくさ¥つよかり/けれ/ば¥ささきの−はうぐわん/が¥てのもの−ども¥いつせんよき、¥うしろ/へ¥まはつ/て¥にしきのこうぢ/より¥ざいけ/を¥うちやぶつ/て¥みだれいる。¥たぢみ/は¥いま/は¥これ/まで/と¥おもひ/けれ/ば、¥もん/の¥くわん/の¥き/を¥さし、¥ちゆうもん/に¥ならび−ゐ/て¥にじふよにん/の¥ものども¥おもひおもひに¥さしちがへさしちがへ¥さん/を¥ちらせ/る/が/ごとく/に/ぞ¥ふし/たり/ける。¥おほて/の¥よせて/が¥もん/を¥うち−やぶり/ける¥あひだ/に¥からめて/の¥せいども¥みだれいつ/て、¥くび/を¥とつ/て¥ろくはら/へ/こそ¥はせかへり/けれ。¥ふたとき/ばかりの¥かつせん/に¥ておひ¥しにん/の¥ちやくたう/には¥にひやくしちじふさんにんP53/なり。

P47¥

「すけとも¥としもと¥とらは/るる¥こと」10¥

8.すけとも¥としもと¥くわんとう¥げかう/の¥こと¥つけたり¥おんつげぶみ/の¥こと¥

とき¥たぢみ¥うた/れ/て¥のち¥すけとも・¥としもと/の¥いんぼう¥しだいに¥ろけん−し/て/けれ/ば¥とうし¥ながさき−まごしらうさゑもんのじよう−やすみつ¥なんでうの−じらうざゑもんのじよう−むねなほ¥ににん¥しやうらくし/て、¥よくねん¥ごぐわつとをか¥すけとも¥としもと¥りやうにん/を¥めしとる。¥とき−じふらう/が¥うた/れ/し¥とき¥いけどり/の¥もの¥いちにん/も¥なかり/しか/ば¥はくじやう/は¥よも¥あら/じ¥さりとも¥われら/が¥こと/は¥あらはれ/じ/と¥はかなき¥たのみ/に¥ゆだんし/て¥かつて¥その¥ようい/も¥なかり/けれ/ば¥さいし¥とうざい/に¥にげまよひ¥み/を¥かくさ/ん/と¥する/に¥ところ¥なく¥ざいほう/は¥おほぢ/に¥ひきちらさ/れ¥ばていのちり/と¥なり/に/けり。¥かの¥すけとものきやう/は¥ひの/の¥いちもん/にて¥しき¥だいり/を¥へ¥くわん¥ちゆうなごん/に¥いたれ/り。¥きみ/の¥おんおぼえ/も¥た/に¥こと/に/して¥いへ/の¥はんじやう¥とき/を¥え/たり/き。¥としもとあそん/は、¥その¥み¥じゆが/の¥もと/より¥いで/て¥のぞみ¥くんげふ/の¥うへ/に¥たつせ/しか/ば¥どうくわん/も¥ひばのちり/を¥のぞみ¥ちやうじや/も¥ざんぱい/の¥つめたき/に¥したがふ。¥むべ/なる/かな¥ふぎ/にして¥とみ¥たつとき/は¥われ/に−おいて¥うかめ/る¥くも/の/ごとし/と¥いへ/る¥こと、¥これ¥こうし/の¥ぜんげん¥ろろん/の¥きする¥ところ

P48

/なれ/ば¥なじかは¥すこしも¥たがふ/べき。¥ゆめ/の¥うち/の¥たのしみ¥たちまち/に¥つき/て¥がんぜん/の¥かなしみ¥ここ/に¥きたれ/り。¥かれ/を¥み¥これ/を¥きき/ける¥ひと¥ごと/に¥じやうしやひつすい/の¥ことわり/を¥しり/て、¥そで/を¥ぬらさ/ぬ/は¥なかり/ける。P54¥

「しゆしやう¥ごかうぶん¥くわんとう/へ¥くださ/るる¥こと」11¥

おなじき¥にじふしちにち/に、¥とうし¥りやうにん¥すけとも¥としもと/を¥ぐそくし¥たてまつつ/て¥かまくら/へ¥げちやくす。¥この¥ひとびと/は¥ことさら¥むほん/の¥ちやうほん/たり/しか/ば¥やがて¥ちゆうさ/れ/ぬ/と¥おぼえ/しか/ども¥ともに¥てうてい/の¥きんしん/として¥さいがく¥いうちやう/の¥じん/たり/とて、¥よ/の¥そしり¥きみ/の¥おんいきどほり/を¥はばかつ/て¥がうもん/の¥さた/にも¥およば/ず。¥よのつね/の¥めしうど/の/ごとく/にて¥さぶらひどころ/にぞ¥あづけおか/れ/ける。¥しちぐわつなぬか/の¥よ/は¥けんぎう¥しよくぢよ/の¥じせい¥かささぎのはし/を¥わたり/て¥いちねん/の¥くわいばう/を¥とく¥よ/なれ/ば¥きゆうじん/の¥ふうぞく、¥ちくかん/に¥ねがひ/の¥いと/を¥かけ¥ていぜん/に¥かくわ/を¥つらね/て¥きつかうでん/を¥しゆする¥よ/なれ/ども¥せじやう¥さわがしき¥をりふし/なれ/ば¥しいか/を¥そうする¥さうじん/も¥なく¥くわんげん/を¥しらむる

P49¥

れいりん/も¥なし。¥たまたま¥うへぶし¥つかまつり/たる¥げつけいうんかく/も¥なにとなく¥よのなか/の¥みだれ¥また¥たが¥みのうへ/にか¥きたら/んず/らん/と¥たましひ/を¥けし¥きも/を¥ひやす¥をりふし/なれ/ば¥みな¥まゆ/を¥ひそめ¥おもて/を¥たれ/てぞ¥さうらひ/ける。¥よ¥いたく¥ふけ/て¥たれか¥さうらふ/と¥めさ/れ/けれ/ば¥よしだのちゆうなごんふゆかた¥さうらふ/とて¥おんまへ/に¥まゐら/れ/たり。¥しゆしやう¥せき/を¥すすめ/て¥おほせ/られ/ける/は¥すけとも¥としもと/が¥とらはれ/し¥のち¥とうふう¥なほ¥いまだ¥しづまら/ず。¥ちゆうか¥つね/に¥あやふき/を¥ふむ。¥このうへ/に¥また¥いか/なる¥あしき¥さた/をや¥いたさ/んず/らん/と¥えいりよ¥さらに¥おだやか/なら/ず。¥いかにして¥まづ¥とうい/の¥こころ/を¥しづむる¥はかりごと¥あら/ん/と¥ちよくもん¥あり/けれ/ば¥ふゆかた¥つつしん/で¥まうさ/れ/ける/は¥すけとも¥としもと−ら/が¥はくじやう¥あり/とも¥うけたまはり−および¥さうらは/ね/ば¥ぶしん¥このうへ/には¥なん/の¥さた/にか¥および¥さうらふ/べき。¥きんじつ¥とうい/の¥ふるまひ¥そこつ/の¥ぎ¥おほく¥さうらへ/ば¥ごゆだん/は¥ある/まじき/にて¥さうらふ。¥まづ¥ごかうぶん/を¥いつし¥くださ/れ¥さうらひ/て、¥さがみにふだう/が¥いかり/を¥しづめ¥さうらは/ばや/と¥まうさ/れ/けれ/ば¥しゆしやう¥げにも/とや¥おぼしめさP55/れ/けん。¥さらば¥やがて¥ふゆかた¥かけ/と¥おほせ/られ/けれ/ば¥すなはち¥おんまへ/にて¥さうあん¥し/て¥これ/を¥そうらんす。¥しゆしやう¥しばらく¥えいらん¥あつ/て¥おんなみだ/の¥かうぶん/の¥うへ/に¥はらはらと¥かかり

P50

/ける/を¥おんそで/にて¥のごひ¥たまへ/ば¥おんまへ/に¥さうらは/れ/ける¥らうしん¥みな¥ひてい/を¥ふくま/ぬ/は¥なかり/けり。¥やがて¥までのこうぢの−ちゆうなごんのぶふさのきやう/を¥ちよくし/にて¥この¥かうぶん/を¥くわんとう/へ¥くださ/る。¥さがみにふだう¥あいたのじやうのすけ/を−もつて¥ごかうぶん/を¥うけとつ/て¥すなはち¥ひけんせ/ん/と¥し/ける/を¥にかいだうのではのにふだうだううん¥かたく¥いさめ/て¥まうし/ける/は¥てんし¥ぶしん/に¥たいし/て¥ぢきに¥かうぶん¥くださ/れ/たる¥こと¥いてう/にも¥わがてう/にも¥いまだ¥その¥れい/を¥きか/ず。¥しかるを¥なほざり/に¥ひけんせ/らるる¥こと¥みやうけん/に−つけ/て¥その¥おそれ¥あり。¥ただ¥この¥ふんばこ/を¥ひらか/れ/ず/して¥ちよくし/に¥かへし¥まゐらせ/らる/べき/か/と¥さいさん¥まうし/けれ/ども、¥さがみにふだう¥なにか¥くるしかる/べき/とて¥さいとうたらうさゑもんのじよう−としゆき/に¥よみ¥まゐらせ/させ/られ/ける/に¥えいしん¥いつはら/ざる¥ところ¥てん/の¥せうらん/に¥にんす/と¥あり/ける¥ところ/を¥よみ/ける¥とき¥としゆき¥にはかに¥め¥くれ¥はなぢ¥たり/けれ/ば¥よみはて/ず/して¥たいしゆつし/たり/ける/が、¥その¥ひ/より¥のんど/の¥した/に¥あくそう¥いで/て¥なぬか/が¥うち/に¥ち/を¥はい/て¥しに/に/けり。¥とき¥げうき/に¥およん/で¥みち¥どだん/に¥おつ/と¥いへ/ども¥くんしん¥じやうげ/の¥れい¥たがふ¥とき/は¥さすが/に¥ぶつじん/の¥ばち/も¥あり/けり/と¥これ/を¥きき/ける¥ひと¥ごと/に¥おぢおそれ/ぬ/は¥なかり/けり。

P51¥

いかさま¥すけとも¥としもと/の¥いんぼう¥えいりよ/より¥いで/し¥こと/なれ/ば¥たとひ¥かうぶん/を¥くださ/れ/たり/と¥いふ/とも¥それ/には¥よる/べから/ず。¥しゆしやう/をば¥をんごく/へ¥うつし¥たてまつる/べし/と¥はじめ/は¥ひやうぢやう¥いつけつし/たり/けれ/ども¥ちよくし¥のぶふさのきやう/の¥まうさ/れ/し¥おもむき¥げにも/と¥おぼゆる¥うへ¥ごかうぶん¥よみ/たり/し¥としゆき/が、¥にはか/にP56¥ち/を¥はい/て¥しに/たり/ける/に¥しよにん¥みな¥した/を¥まき¥くち/を¥とづ。¥さがみにふだう/も¥さすが¥てんりよ¥その¥はばかり¥あり/ける/にや¥

ごちせい/の¥おんこと/は¥てうぎ/に¥まかせ¥たてまつる¥うへは¥ぶけ¥いろひまうす/べき/に¥あら/ず/と¥ちよくたふ¥まうし/て¥ごかうぶん/を¥かへし¥まゐらせ/らる。¥のぶふさのきやう¥すなはち¥きらくし/て¥この¥よし/を¥そうしまうさ/れ/ける/にこそ¥しんきん¥はじめて¥とけ/て¥ぐんしん/も¥いろ/をば¥なほさ/れ/ける。¥さるほどに¥としもとあそん/は¥つみ/の¥うたがはしき/を¥かろんじ/て¥しやめんせ/られ¥すけとものきやう/をば¥しざい¥いつとう/を¥なだめ/られ¥さどのくに/へぞ¥ながさ/れ/ける。¥

たいへいきくわんだいいち¥

*第2巻以下続きます。

 

予告編

2001年の大河ドラマにちなみまして、巻三十九より 「自太元攻日本事」を先行公開します。(国民文庫)

○自太元(たいげんより)攻日本(につぽんをせむ)事(こと) S3909

倩(つらつら)三余(さんよ)の暇(いとま)に寄(よせ)て千古の記する處を看(み)るに、異国より吾朝(わがてう)を攻(せめ)し事、開闢以来(かいびやくよりこのかた)已(すで)に七箇度に及べり。殊更(ことさら)文永・弘安両度の戦は、太元国の老皇帝支那四百州を討取て勢(いきほ)ひ天地を凌(しの)ぐ時なりしかば、小国の力にて難退治かりしか共、輙(たやす)く太元の兵を亡(ほろぼ)して吾(わが)国無為(ぶゐ)なりし事は、只是(これ)尊神霊神(そんしんれいしん)の冥助(みやうじよ)に依(より)し者也。其(その)征伐の法を聞けば、先(まづ)太元の大将万(まん)将軍、日本王畿五箇国(ごかこく)を四方三千七百里に勘(かんが)へて、其(その)地に兵を無透間立双(ならべ)て是(これ)を數(かぞふ)るに、三百七十万騎に当れり。此(この)勢を大船七万余艘に乗て、津々浦々より推(おし)出す。此企(このくはたて)兼(かね)てより吾朝に聞へしかば、其(その)用意(ようい)を致せとて、四国・九州の兵は筑紫の博多に馳(はせ)集り、山陽・山陰の勢は帝都に馳参る。東山道・北陸道の兵は、越前敦賀(つるが)の津をぞ堅(かた)めける。去(さる)程に文永二年八月十三日、太元七万余艘の兵船、同時に博多の津に押寄(おしよせ)たり。大舶(たいはく)舳艫(ともへ)を雙(ならべ)て、もやいを入(いれ)て歩(あゆみ)の板を渡して、陣々に油幕(ゆばく)を引き干戈(かんくわ)を立双(なら)べたれば、五島(ごたう)より東、博多の浦に至るまで、海上の四囲(しゐ)三百余里俄(にはか)に陸地(くがち)に成(なり)て、蜃氣(しんき)爰(ここ)に乾闥婆城(けんだつばじやう)を吐(はき)出せるかと被怪。日本(につぽん)の陣の構(かまへ)は、博多の浜端(はまばた)十三里に石の堤(つつみ)を高く築(きづい)て、前は敵の為に切立たるが如く、後(うしろ)は為御方平々(へいへい)として懸引(かけひき)自在也。其陰(そのかげ)に屏(へい)を塗り陣屋を作て、数万の兵並居(なみゐ)たれば、敵に勢の多少をば見透(みすか)されじと思ふ処に、敵の舟の舳前(へさき)に、桔槹(はねつるべ)の如くなる柱を數十丈高く立て、横なる木の端(はし)に坐を構(かまへ)て人を登せたれば、日本(につぽん)の陣内目の下に直下(みおろ)されて、秋毫(しうがう)の先をも數(かぞへ)つべし。又面の四五丈廣き板を、筏(いかだの)如(ごとく)に畳鎖(たたみくさり)て水上に敷双(しきならべ)たれば、波の上に平なる路数(あま)た作(つくり)出されて、恰(あたかも)三条(さんでう)の広路(ひろみち)、十二の街衢(かいく)の如く也。此(この)路より敵軍数万の兵馬を懸出し、死をも不顧戦ふに、御方(みかた)の軍勢の鉾(ほこ)たゆみて、多くは退屈してぞ覚(おぼえ)ける。皷を打て兵刃(へいじん)既(すで)に交(まじは)る時、鉄炮(てつぱう)とて鞠(まり)の勢なる鐵丸(てつぐわん)の迸(ほとばし)る事下坂輪(くだりざかりん)の如く、霹靂(へきれき)する事閃電光の如くなるを、一度(いちど)に二三千抛(なげ)出したるに、日本(につぽんの)兵多(おほく)焼(やき)殺され、関櫓(きどやぐら)に火燃(もえ)付(つき)て、可打消隙も無(なか)りけり。上松浦(かみまつら)・下松浦(しもまつら)の者共(ものども)此(この)軍を見て、尋常(よのつね)の如(ごとく)にしては叶はじと思(おもひ)ければ、外(よそ)の浦より廻(まはつ)て、僅(わづか)に千余人の勢にて夜討にぞしたりける。志の程は武(たけ)けれ共、九牛(きうぎう)が一毛(いちまう)、大倉(たいさう)の一粒(いちりふ)にも當らぬ程の小勢にて寄せたれば、敵を討(うつ)事は二三万人なりしか共、終(つひ)には皆被生捕、身を縲紲(るゐせつ)の下に苦しめて、掌(たなごころ)を連索(れんさく)の舷(ふなばた)に貫(つらぬか)れたり。懸(かか)りし後は重(かさね)て可戦樣も無(なか)りしかば、筑紫九国の者共(ものども)一人も不残四国・中国へぞ落(おち)たりける。日本(につぽん)一州の貴賎上下如何(いか)がせんと周章騒(あわてさわ)ぐ事不斜。諸社の行幸御幸(ぎやうがうごかう)・諸寺の大法秘法、宸襟(しんきん)を傾(かたぶけ)て肝胆(かんたん)を碎(くだ)かる。都(すべ)て六十余州大小の神祇、霊験(れいけん)の仏閣に■使を被下、奉幣を不被捧云(いふ)所なし。如此御祈祷已(すで)に七日滿(まん)じける日、諏訪(すは)の湖(みづうみ)の上より、五色の雲西に聳(たなび)き、大蛇の形に見へたり。八幡(やはたの)御宝殿の扉(とびら)啓(ひら)けて、馬の馳(はせ)ちる音、轡(くつばみ)の鳴(なる)音、虚空(こくう)に充満(みちみち)たり。日吉の社二十一社の錦帳(きんちやう)の鏡動(うご)き、神宝刃(やいば)とがれて、御沓皆西に向へり。住吉四所の神馬(じんめ)鞍の下に汗流れ、小守(こもり)・勝手(かつて)の鉄(くろがね)の楯(たて)己(おのれ)と立て敵の方につき双(なら)べたり。凡(およそ)上中下二十二社の震動奇瑞(しんどうきずゐ)は不及申、神名帳に載(のす)る所の三千七百五十余社乃至(ないし)山家村里(さんかそんり)の小社(ほこら)・櫟社(れきしや)・道祖(だうそ)の小神迄(まで)も、御戸(みと)の開(ひらか)ぬは無(なか)りけり。此(この)外春日野(ひの)の神鹿(しんろく)・熊野(くまの)山の霊烏(れいう)・気比(けひの)宮の白鷺(しらさぎ)・稲荷山の名婦(みやうぶ)・比叡(ひえい)山の猿、社々の仕者(ししや)、悉(ことごとく)虚空を西へ飛(とび)去ると、人毎(ごと)の夢に見へたりければ、さり共此(この)神々の助(たすけ)にて、異賊(いぞく)を退(しりぞ)け給はぬ事はあらじと思ふ許(ばかり)を憑(たのみ)にて、幣帛(へいはく)捧(ささげ)ぬ人もなし。浩(かか)る處に弘安四年七月七日、皇太神宮の禰宜(ねぎ)荒木田尚良(あらきたのひさよし)・豊受(とようけ)太神宮の禰宜度会貞尚等(わたらゑのさだひさら)十二人(じふににん)起請(きしやう)の連署(れんしよ)を捧(ささげ)て上奏しけるは、「二宮(にぐう)の末社(まつしや)風の社(みや)の宝殿の鳴動する事良(やや)久し。六日の暁天(げうてん)に及(および)て、神殿より赤(あかき)雲一村(ひとむら)立(たち)出て天地を耀(かかやか)し山川を照す。其(その)光の中より、夜叉羅刹(やしやらせつ)の如くなる青色の鬼神顕(あらは)れ出て土嚢(どなう)の結目(ゆひめ)をとく。火風其(その)口より出て、沙漁(しやぎよ)を揚(あ)げ大木を吹(ふき)抜く。測(はかり)ぬ、九州の異狄等(いてきら)、此(この)日即(すなはち)可滅と云(いふ)事を。事若(もし)誠有て、奇瑞(きずゐ)変(へん)に応ぜば、年来(としごろ)申請(まうしうく)る處の宮号(みやがう)、被叡感儀可火宣下。」とぞ奏し申ける。去(さる)程に大元の万(まん)将軍、七万余艘のもやひをとき、八月十七日辰刻(たつのこく)に、門司・赤間が関を經て、長門・周防へ押渡る。兵已(すで)に渡中(となか)をさしゝし時、さしも風止(や)み雲閑(しづか)なりつる天気俄(にはか)に替(かはつ)て、黒雲一村艮(うしとら)の方より立覆(おほ)ふとぞ見へし。風烈(はげし)く吹(ふい)て逆浪(さかなみ)大に漲(みなぎ)り、雷(いかづち)鳴霆(なりはためい)て電光地に激烈す。大山も忽(たちまち)に崩れ、高天も地に落(おつ)るかとをびたゝし。異賊七万余艘の兵船共或は荒磯の岩に当て、微塵(みぢん)に打砕かれ、或は逆巻(さかまく)浪に打返されて、一人も不残失(うせ)にけり。斯(かか)りけれ共、万将軍一人は大風にも放たれず、浪にも不沈、窈冥(えうめい)たる空中に飛(とび)揚(あが)りてぞ立たりける。爰(ここ)に呂洞賓(りよとうひん)と云(いふ)仙人、西天の方より飛來て、万将軍に占(しめ)しけるは、「日本(につぽん)一州の天神地祇三千七百余社来て、此(この)悪風を起し逆浪(げきらう)を漲(みなぎら)しむ。人力の可及処に非ず。汝(なんぢ)早く一箇の破船に乗て本国へ可帰。」とぞ申ける。万将軍此(この)言を信じて、一箇の破船有(あり)けるに乗て、只一人大洋万里の波を凌(しのぎ)て、無程明州の津にぞ著(つき)にける。舟より上り、帝都へ参らんとする處に、又呂洞賓忽然(こつぜん)として来て申けるは、「汝日本(につぽん)の軍に打負(うちまけ)たる罪に依て、天子忿(いかつ)て親類骨肉、皆(みな)三族の罪に行(おこな)はれぬ。汝帝都に帰らば必(かならず)共に可被刑。早く是(これ)より剣閣(けんかく)を經て、蜀(しよく)の国へ行去れ。蜀王以汝大将として、雍州(ようしう)を攻(せめ)ばやと、羨念(うらやみおも)ふ事切(せつ)なり。至らば必(かならず)大功を建(たつ)べしと云て別れたるが、我汝が餞送(はなむけ)の為に嚢(なう)中を探(さぐ)るに、此(この)一物の外は無他。」とて、膏薬(かうやく)を一付与へける。其(その)銘に至雍発(しようはつ)とぞ書(かき)付(つけ)たりける。万将軍呂洞賓(りよとうひん)が言に任(まかせ)て、蜀へ行(ゆき)たるに、蜀王是(これ)を悦(よろこび)給ふ事無限。軈(やが)て万将軍に上将(じやうしやう)の位を授け、雍州をぞ攻(せめ)させける。万将軍兵を卒し旅(りよ)を屯(たむろし)て雍州に至るに、敵山隘(さんあい)の高く峙(そばだち)たるに、石の門を閉(とぢ)てぞ待(まち)たりける。誠に一夫(いつぶ)忿(いかつ)て臨関に、万夫(ばんぷ)も不可傍と見へたり。此(この)時に万将軍、呂洞賓が我に与(あたへ)し膏薬の銘(めい)に至雍発(はつ)せよと書(かき)たりしは、此(この)雍州の石門に付(つけ)よと教へけるにこそと心得て、密(ひそか)に人をして、一付有(あり)ける膏薬を、石門の柱にぞ付(つけ)させたりける。付(つく)ると斉(ひとし)く石門の柱も戸も如雪霜とけて、山崩(くづ)れ道平になりければ、雍州の敵数万騎、可防便(たより)を失(うしなひ)て、皆蜀王にぞ降(くだ)りける。此(この)功■(しかしながら)万将軍が徳也とて、軈(やが)て公侯の位に登せられける。居(を)る事三十日有て、万将軍背(せなか)に癰瘡(ようさう)出たりけるが、日を不経して忽(たちまち)に死(しに)にけり。雍州の雍の字と癰瘡の癰字と■聲(いんせい)通ぜり。呂洞賓が膏薬の銘に至癰發と書(かき)けるは、雍州の石門に付(つけ)よと教(をしへ)けるか、又癰瘡の出たらんに付(つけ)よと占(しめ)しけるか、其(その)二の間を知(しり)難し。功は高(たかく)して命は短し。何をか捨(すて)何をか取(とら)ん。若(もし)休(やむ)事を不得して其(その)一を捨(すて)ば、命は在天、我は必(かならず)功を取(とら)ん。抑太元三百万騎の蒙古(もうこ)共一時に亡(ほろび)し事、全(まつたく)吾国の武勇に非ず。只(ただ)三千七百五十余社の大小神祇、宗廟(そうべう)の冥助(みやうじよ)に依るに非(あら)ずや。

太平記巻第一

 

太平記

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