『将門記』 総ひらがな版 原文付き 更新日 2007.02.04.日

凡例

底本: 『将門記』真福寺本

参考文献

『将門記』真福寺本評釈 赤城宗徳

『将門記』東洋文庫

小学館新編日本古典文学全集『将門記』

『平将門資料集 付 藤原純友資料集』新人物往来社

参考としまして、『将門記』真福寺本評釈のページ数を記しました。

『将門記』真福寺本は、巻頭部を欠いていますので、下記で補いました。

 

『抄本』(「類従本」)冒頭部分

それきく、かのまさかどは、あめのくにおしひらき、あめしたしろしめすかしはばらのすめらみことごだいのびようえい、さんせいたかもちわうのまごなり。そのちちは、むつのちんぢゆふしやうぐんたひらのあつそんよしもちなり。しやていのしもふさのすけたひらのよしかねあつそんは、まさかどのおぢなり。しかるに、よしかねは、さるえんちやうくねんをもつて、いささかじよろんにより、おぢおひのなかすでにあひたがふ。

原文

夫聞、彼將門者、天國押撥御宇、柏原天皇五代之苗裔、三世高望王之孫也。其父陸奧鎮守府將軍平朝臣良持也。舍弟下總介平良兼朝臣、將門之伯父也。而良兼、以去延長九年、聊依女論舅甥之中、既相違。

 

『将門略記』蓬左文庫本

それきく、かのまさかどは、むかしのあめくにおしはるきあめのしたしろしめししかしはばらのすめらみことごだい

のびようえい、さんせいたかもちわうのまごなり。そのちちはむつのちんぢゆふ

しやうぐんたひらのあつそんよしもちなり。しやていのしもふさのすけたひらのよしかねあつそんは

まさかどのおぢなり。しかるによしかね、さるえんちやうくねんをもて、いささかじよ

ろんによりてきゆうせいのなかすでにさういせり。よしまさもまたまさかどがつぎのおぢなり。

原文

夫聞、彼將門、昔天國押撥御宇柏原天皇五代

之苗裔、三世高望王之孫也。其父陸奧鎮守府

將軍平朝臣良持也。舍弟下總介平良兼朝臣、

將門之伯父也。而良兼、以去延長九年、聊依女

論舅甥之中、既相違。良正亦將門次之伯父也。

 

歴代皇紀・朱雀天皇条(「将門合戦状」に云く)

はじめおぢたひらのよしかねとまさかどとかつせんし、つぎにたひらのまきにかたらはれ、しやうへいごねんにぐわつ、たひらのくにかならびにみなもとのまもるとかつせんす。

原文

(将門合戦状云)始伯父平良兼与(二)将門(一)合戦。次被(レ)語(二)平真樹(一)、承平五年二月与(二)平国香并源護(一)合戦。

 

『将門記』真福寺本 総ひらがな版

P031

うらとうのもと  たすくらぢんをはりてまさかどをあひまてり。はるかにかのいくさのていをみるに、いはゆるとうくつにかみにむかひて、はたをなびかせしようをうつ。〈 とうくつはひやうぐなり。じゆうもうをもてこれをつくる。しようはへいこなり。ことわざにいふ、ふりつつみなり、と 〉

ここにまさかど、やめんとほつするにあたはず、すすまんとぎするによしなし。しかれども、みをはげましてすすめより、やいばをまじへてかつせんす。まさかどは、さいはひにじゆんぷうをえて、やをいることながるるがごとく、あたるところはあんのごとし。たすくらはげむといへども、つひにもつてまくるなり。よつてほろぶるものはかずおほく、ながらふるものはすでにすくなし。

P038

そのよつかをもつて、のもと・いしだ・おほぐし・とりきなどのたくよりはじめて、よりきのひとびとのちひさきたくにいたるまで、みなことごとくにやきめぐる。〔おくにかくれてやかるるものはけぶりにまどひてさらず、〕ひをのがれていづるものは、やにおどろきてひのなかにかへりいる。きやうかんのなか、せんねんのたくはへ、いちじのほのほにともなへり。またつくば・まかべ・にいはりかんかぐんのばんるいのしやたくごひやくよけ、かずのごとくにやきはらふ。

かなしきかな、だんぢよはひのためにたきぎとなり、ちんざいはたのためにわかつところとなりぬ。さんがいのくわたくのざいにごしゆあり、きよらいふぢやうなりといふは、もしくはこれをいふか。

そのひのひのこゑは、いかづちをろんじてひびきをほどこし、そのときのけぶりのいろは、くもをきそひてそらをおおう。さんわうはけぶりにまじはりていはほのうしろにかくれ、ひとのたくははひのごとくにしてかぜのまへにちりぬ。こくりばんせいは、これをみてあいどうし、おちこちのしんそは、これをききてたんそくす。やにあたりてしせるのものは、おもはざるにふしのなかをわかち、たてをすててのがるるのものは、はからざるにふうふのあひだをはなたれぬ。

P045

なかんづくさだもりは、みをおほやけにすすめ、ことおこるいぜんに、はなのしろにさんじやうし、へめぐるのほどに、つぶさによしをきやうとにしてきく。

よつてかのきみ、もののこころをあんずるに、「さだもりはまことに、かのさきのだいじようみなもとのまもるならびにそのしよしとうとは、みなどうたうなるものなり。しかれども、いまだみづからよりきせざるも、ひとへにそのえんざにあまる。げんぶくにかがしやたくは、みなことごとくにほろびめつしぬ。そのみもしきよしぬるものなり」と。はるかにこのよしをききて、しんちゆうにさたんす。ざいにおいてはごしゆあれば、なんぞこれをうれへてによばむや。ただしかなしきは、ばうふのむなしくよみぢのわかれをつげ、ぞんぼのひとりさんやのまよひをつたふを。あしたにはきよしてこれをきき、なみだしてもつておもてをあらひ、ゆふべにはふしてこれをおもひ、うれひてもつてむねをやけり。

P048

さだもりは、あいぼのいたりにたへずして、いとまをおほやけにまうしてふるさとにかへる。わづかにしもんにつきて、ばうふをけぶりのなかにもとめ、いぼをいはほのくまにとふ。さいはひにじばのしなにあづかるといへども、かへりてべつかくのふにによぶ。まさにいま、ひとのくちをもつてたづねてかいろうのともをえたり。でんごんをもつてとひてれんりのとをとれり。

ああかなしきかな、ぬののかうぶりをみどりのかみにつけ、すげのおびをぶぢのころもにゆふ。ふゆさりはるきたりて、やうやくていせいのひをうしなへり。としかはりふしかはりて、わずかにしうきのねがひをとげたり。

P050

さだもりつらつらあないをけんするに、およそまさかどはほんいのてきにあらず、これげんじのえんざなり。〈 ことわざにいはく、いやしきものはたつときにしたがひ、よわきものはつよきによる、しかじ、けいじゆんせむにはと。 〉いやしくもさだもりはしゆきのしよくにあり。すべからくかんとにかへりて、かんゆうをますべし。しかうしてさうぼだうにあり、こにあらずばたれかやしなはむ。でんちかずあり、われにあらずばたれかりやうせむ。まさかどにむつびてはうさうをくわいにつうじ、ひよくをこくかにつたへむと。よつてつぶさにこのよしをあげ、ねんごろにせむことこれかならむ、てへり。

P053

すなはちたいめんせむとするのあひだ、こかづさのすけたかもちのおほきみのせふのこ、たひらのよしまさはまたまさかどのつぎのをぢなり。しかうしてすけよしかねのあそんとよしまさとはきやうだいのうへに、ふたりながら、かのひたちのさきのじようみなもとのまもるのいんえんなり。まもるはつねにむすこたすく・たかし・しげるとうがまさかどのためにがいせらるるのよしをなげく。しかれどもすけよしかねはかづさのくににをりて、いまだこのことをとらず。よしまさひとりいんえんをついぼして、くるまのごとくにひたちのちにまひめぐる。

P055

ここによしまさひとへにがいえんのうれひにつきて、にはかにないしんのみちをわすれぬ。よつてかんくわのけいをくはたてて、まさかどのみをちゆうせむとす。ときによしまさのいんえん、そのいまうのはげみをみて、いまだしようぶのよしをしらずといへども、かねてくわんじとほほえみきいとよろこぶらくのみ。じしよにいはく、くわんじは、わには、つはゑむといふなり。うへのおとはくわんのはん、したのおとはしのはん。きいは、わには、よろこふといふなり。うへのおとはぎ、したのおとはいのはん。ことわりにまかせたてをおひ、まことによりてたちいづ。

まさかど、このげんをつたへにききて、じようへいごねんじふぐわつにじふいちにちをもつて、たちまちにかのくににひばりのこほりかはわむらにむかふ。すなはちよしまさ、こゑをあげあんのごとくうちあひ、いのちをすてておのおのかつせんす。しかれどもまさかどはうんありてすでにかちぬ。よしまさはうんなくしてつひにまくるなり。いとるものはろくじふよにん、にげかくるるものはそのかずをしらず。しかうしてそのにじふににちをもつて、まさかどはほんごうにかへる。

P059

ここによしまさならびにいんえんやばんるいは、つはもののはぢをたかいにくだし、てきのなをしぜんにあぐ。あぢきなくもじやくうんのこころをはたらかす。そらにしつぷうのかげをおふ。〈 しよにいはく、はあぢきなく。 〉しかれどもくわいけいのふかきによりて、なほしてきたいのこころをおこす。よつてふそくのよしをしるして、たいけいのすけにあぐ。そのじようにいはく、「らいでんのひびきをおこすは、これふううのたすけによる。こうかくくもをしのぐはただうしやうのはたらきによる。こひねがはくはがふりきをかうぶりまさかどのらんあくをしづめむと。しかればすなはちこくないのさわぎおのづからとまり、じやうげのうごきかならずしづまらむ」てへり。

P061

かのすけよしかねあつそん、きさらをひらきていはく、「むかしのあくわうはなほしちちをがいするのつみををかしき。いまのせぞくはなんぞをひをつよむるのあやまちをしのばむや。しやていののぶるところはもつともしかるべし。そのよし、なんとならば、いんえんのまもるのじよう、としごろ、ふれうれふるところあり。いやしくもよしかねはかのいんあのちようたり。あによりきのこころなからむや。はやくじゆうぐをととのへて、ひそかにあひまつべし」てへり。

よしまさはみずをえたるりようのこころをはげまし、りりようのむかしのはげみをなす。

P063

これをききて、さきにいくさにいられしものは、きずをいやしてむかひきたる。そのいくさにのがれしものは、たてをつくろひてあひつどふ。

しかるあひだにすけのよしかねはつはものをととのへぢんをはる。じようへいろくねんろくぐわつにじふろくにちをもつて、ひたちのくにをさして、くものごとくわき、じやうげのくに〈 かづさしもふさをいふなり 〉をいづ。きんあつをくはふといへども、いんえんをとふとしようして、のがれとぶがごとし、てへり。しよしよのせきにつかずして、かづさのくにむさしのこほりのせうだうより、しもふさのくにかとりぐんのしんぜんにいたりつく。そのわたりよりひたちのくにしだのこほりえざきのつにつく。

P066

そのみようにちのそうてうをもつて、どうこくのみもりのえいしよにつく。このけいめいによしまささんかうしてふしんをのぶ。そのついでにさだもりちうせきのこころざしあるによりて、かのすけにたいめんす。すけあひかたりていはく、「きくがごとくば、わがよりうどはまさかどらとねんごろなり、てへり。これそのつはものにあらざるものなり。つはものはなをもつてもつともさきとなす。なんぞじやつかんのざいぶつをりよりようせしめ、じやつかんのしんるいをさつがいせしめて、そのてきにこぶべきや。いますべからくともにがふりきせらるべし。まさにぜひをさだめむとす」といふ。さだもりはじんこうのあまきによりて、ほんいにあらずといへども、あんにどうるいとなつて、しもつけぬのくにをさして、ちをうごかしくさをなびけ、いちれつにおこりむかふ。

P068

ここにまさかどはききゆうあるによりて、じつぴをみむがために、ただひやくよひきをひきゐ、どうねんじふぐわつにじふろくにちをもつて、しもつけぬのくにのさかひにうちむかふ。じつによりて、くだんのてきすせんばかりあり。ほぼけしきをみるに、あへててきたいすべからず。そのよしなんとなれば、かのすけはいまだかつせんのいとまにつひえずして、じんばはかうひし、かんくわはみなそなはれり。まさかどはどどのてきにとりひしがれ、ひようぐすでにとぼしく、にんせいあつからず。

てきはこれをみて、かきのごとくにたてをつき、せつするがごとくにせめむかふ。まさかどいまだいたらざるに、まづほへいをよせ、ほぼかつせんせしむ。かついとるじんばははちじふよにんなり。かのすけおほいにおどろきをぢて、みなたてをひきてにげかへる。

まさかどはむちをあげなをとなへて、おひうつのとき、てきはせむかたをうしなひてふかにいりこまる。〈 でんにいはく、偪仄とは、わに、いりこまるといふなり。 〉

P070

ここにおいてまさかどしゆいすらく、まことにじようやのてきにあらずといへども、ちのみちをたづぬればうとからず。うぢをたつればこつにくなり、てへり。いはゆる、ふうふはしたしくしてかはらにひとし。しんせきはうとくしてあしにたとふ。もしつひにさつがいをいたさば、もしくはもののそしりをちこちにあらむか。よつてかのすけひとりのみをのがさむとおもひて、すなはちくにのちようのせいほうのぢんをひらき、かのすけをいださしむるのついでに、せんよにんのつはもの、みなたかのまへのきじのいのちをまぬがれて、にはかにこをいづるのとりのよろこびをなす。

そのひ、くだんのすけのむだうのかつせんのよしを、ざいちのくににふれて、につきしすでにをはんぬ。

そのみやうにちをもつて、ほんどにかへりぬ。

P073

これよりこのかた、さらにことなることなし。

しかるあひだ、さきのだいじようみなもとのまもるのこくじやうによりて、くだんのまもるならびにはんにんのたひらのまさかどおよびまきらをめしすすむべきよしのくわんぷ、さんぬるじようへいごねんじふにぐわつにじふくにちのふ、おなじくろくねんくぐわつなぬかにたうらいす。さこんゑのつがひのをさしやうろくいじやうあなほのともゆき、どうせいのうぢたち、うじのかのともおきらをさし、ひたち、しもつけ、しもふさとうのくににくださる。

よつてまさかどはこくにんよりいぜんに、どうねんじふぐわつじふしちにち、くわきふにじやうどうす。すなはちくていにまゐりて、つぶさにことのよしをそうす。さいはひにてんぱんをかうぶりて、けびゐしどころにおいてりやくもんせらるるに、まことにりむにたへずといへども、ぶつじんのかんありて、あひろんずるにりのごとし。なんぞいはむや、いつてんのめぐみのうへにひやつくわんのかへりみあり。をかすところかろきになぞらへて、ざいくわおもからず。つはもののなをきだいにふるまひ、めんぼくをきやうぢゆうにほどこす。

P076

けいくわいのほどに、けんとくせうをくだし、ほうれきすでにあらたまる。〈 いふところは、ていわうのごかんぶくのとし、じようへいはちねんをもつて、てんぎやうぐわんねんとあらたむ。ゆゑにこのくあるなり。 〉ゆゑにまつのいろはせんねんのみどりをふくみ、はすのいとはじふぜんのつるをむすぶ。まさにいま、ばんせいのおもきにはたいしやにかろめられ、はちぎやくのだいなるあやまちははんにんにあさめらる。

まさかどさいはひにこのじんぷうにあひて、じようへいしちねんしぐわつなぬかのおんせうによりて、つみにけいちようなく、よろこびのゑくぼをしゆんかにふくみ、くわんかうをちゆうかにたまふ。かたじけなくもえんたんのいとまをじして、つひにたうしのさかひにかへる。〈 でんにいふ、むかし、えんたん、しんくわうにつかへて、はるかにひさしきとしをへたり。しかるのち、えんたんいとまをこひてこきやうにかへらむとす。すなはちしんくわうおほせていはく、たとへばからすのかしらしらみ、うまのつのしやうずるとき、なんぢのかへることをゆるさむ、てへり。えんたんなげきて、てんをあふげばからすこれがためにかしらしらみ、ちにふせばうまこれがためにつのをおふ。しんくわうおほいにおどろき、すなはちかへることをゆるす。またたうしは、さいはひにじやうらくのくににいるといへども、さらにほんごうのさかひにかへる。ゆゑにこのくあるなり。しさいはほんもんにみゆるなり。 〉いはゆる、うまにほくふうのうれひあり。とりになんしのかなしびあり。なんぞいはむや、じんりんのおもひにおいていづれかくわいどのこころなからむや。よつてどうねんごぐわつじふいちにちをもつて、はやくにとらくをじして、へいたくにつく。

P080

いまだたびのあしをやすめず、いまだじゆんげつをへざるに、くだんのすけのよしかね、ほんいのうらみをわすれずして、なほしくわいけいのこころをとげむとおもふ。としごろかまへたるところのひやうかく、そのいきほひつねよりもことなれり。

すなはちはつぐわつむいかをもつて、かこみてひたち、しもふさのりやうごくのさかひ、こかひのわたりにきたる。そのひのぎしきは、れいざうをこひて、まへのぢんにはれり。〈 れいざうといふは、こかづさのすけたかもちのおほきみのかたち、ならびにこむつのしやうぐんたひらのよしもちのかたちなり。 〉せいへいをととのへてまさかどをおそひせむ。そのひ、みやうじんいかりありて、たしかにことをおこなふをひとす。ずいひやうすくなきがうへに、よういくだりて、ただたてをおひてかへる。

ここにかのすけ、しもふさのくにとよだのこほりくるすゐんいくはのみまやおよびひやくしやうのしやたくをやきはらふ。ときに、ひるは、ひとのいへのこしきををさめて、しかもあやしきはひ、かどごとにみてり。よるは、たみのかまどにけぶりをたちて、うるしのはしら、いへごとにそばだてり。けぶりははるかにそらをおほへるのくものごとくちにちるのほしににたり。

P084

おなじくなぬかをもつて、いはゆるてきはたけきなをうばひてはやくさり、まさかどはからきうらみをいだきてしばらくかくる。まさかどはひとへにつはもののなをこうだいにあげむとおもひ、またかつせんをいちりやうじつのあひだにへんじて、かまふるところのほこたてさんびやくしちじふまい、へいしはいちばいせり。どうげつじふしちにちをもつて、どうぐんのしもおほかたのさとほりこしのみちにぢんをかためてあひまつ。くだんのてききにかなひて、くものごとくたちいで、いかづちのごとくひびきをいたす。

そのひ、まさかどにはかにかくびやうをいたはりて、ことごとくにもうもうたり。いまだいくばくもかつせんせざるに、ばんるゐさんのごとくうちちりぬ。のこるところのみんかあたのためにみなことごとくやけほろびぬ。ぐんちゆうのかしよく、じんばはともにそんがいせられぬ。いはゆるせんにんむらがれぬところにはくさきともにしぼむとは、ただこれをいふか。

P087

そのかみをもつて、まさかどはみのやまひをいたはるがために、さいしをかくしてともにさしまのこほりあしづのえのほとりにやどる。ひじやうのうたがひあるによりて、さいしをふねにのせて、ひろかはのえにうかべたり。まさかどはやまをおびてむすへのきしにをれり。いちりやうじつをふるに、くだんのてき、じふはちにちをもつておのおのぶんさんしぬ。じふくにちをもつて、てきのすけさしまのみちをとりて、かづさのくににわたる。

P090

そのひ、まさかどがめをふねにのせてかなたのきしによす。ときに、かのてきら、ばいじんのやくをえてくだんのふねをたづねとれり。しちはちさうがうちにりよりやくせらるるところのざふぶつしぐさんぜんよたんなり。さいしおなじくともにうちとられぬ。すなはちはつかをもつて、かづさのくににわたる。

ここにまさかどがめはさりて、おつとはとどまりて、いかりはらだつことすくなからず。そのみはいきながら、そのたましひはしぬるがごとし。たびのやどにならはずといへども、かうがいしてかりにねまる、あになにのえきかあらむ。

めはつねにしんぷのこころをぞんして、かんぽうにともなひてしなむとおもふ。おつとはすなはちかんわうのはげみをなして、まさにやうかをたづねむとおもふ。

P093

はかりごとをめぐらすのあひだに、すじゆんあひへだたりぬ。なほしくわいれんのところに、あひあふのごなし。

しかるあひだ、めがしやていら、はかりごとをなして、くぐわつとをかをもつて、ひそかにとよたのこほりにかへりむかはしむ。すでにどうきのなかをそむきて、ほんぶのいへにつく。たとへばれうとうのをんなのおつとにしたがひてちちがくにをうたしむるがごとし。くだんのめは、どうきのなかをそむきて、おつとのいへににげかへる。

しかれども、まさかどはなほしをじとしゆくせのかたきとして、かれこれあひいふす。

P097

ときにすけのよしかねいんえんあるによりて、ひたちのくににいたりつく。まさかどわづかにこのよしをききて、またせいばつせむとおもふ。かまへたるところのへいしせんはつぴやくよにん、くさきともになびく。じふくにちをもつて、ひたちのくにまかべのこほりにはつかうす。すなはちかのすけのはとりのしゆくよりはじめて、よりきのばんるいのしやたく、かずのごとくはらひやく。いちりやうじつのあひだに、くだんのてきをおひたづぬ。みなたかきやまにかくれて、ありながらあはず。とうりうのほどに、つくばやまにありときく。

にじふさんにちをもつて、かずのごとくたちいでぬ。まことによりてくだんのてき、ゆぶくろのやまのみなみのたによりはるかにせんよにんのこゑきこゆ。やまひびきくさうごきて、へいきくとののしりくえんくわとかまびすし。

P099

まさかどはぢんをかためたてをつきて、かつはかんてふをおくり、かつはへいしをよす。ときに、りつはまうとうにあたり、ひはたそがれにのぞめり。ここによりて、おのおのたてをひき、ぢんぢんにみをまもる。

むかしよりいまにいたりて、てきのひとのくるしむところは、ひるはすなはちやをかけはげて、もつてひとのやのあたるところをあやぶむ。ふううのせつには、みのかさをいへとなし、さうろのみには、かあぶをあだともなす。しかれどもおのおのてきをうらみむがために、かんおんをはばからずしてかつせんするのみ。

そのたびのぐんかうはすこぶるあきののこりあり。たうこくをふかきどろにしきて、じんばをじねんにわたす。まぐさにあきてしぬるうしはじつとう、さけにゑひてうたれぬるものはしちにん。〈 まきのぢんのひとは、そのいのちしせず。 〉これをいふにくちをしきかな、いくせんのしやたくをやく。これをおもふにあはれむべし、そこばくのたうこくをほろぼす。つひにそのてきにあはずして、むなしくほんいふにかへりぬ。

P103

そののち、どうねんじふいちぐわついつかをもつて、すけよしかね、じようみなもとのまもる、ならびにじようたひらのさだもり、きんまさ、きんつら、はたのきよぶん、およそ、ひたちのくにのてきらを、まさかどについぶせしむべきくわんぷをむさし、あは、かづさ、ひたち、しもつけぬとうのくににくだされぬ。

ここにおいて、まさかどすこぶるいきをのべちからをつく。しかるをしよこくのつかさ、くわんぷをにぎりながら、たしかにはりおこなはず、このみてほりもとめず。

しかるにすけよしかね、なほふんぬのどくをふふむで、いまださつがいのこころをやめず。びんをもとめひまをうかがひて、つひにまさかどをうたむとおもふ。

P105

ときに、まさかどのくしはせつかべのこはるまろいんえんあるによりて、しばしばひたちのくにいしだのしやうへんのたやにかよふ。ときに、かのすけしんちゆうにおもへらく〈 じしよにいはく、以為はおむみらく、 〉ざんけんはいはほをわり、しよくせいはやまをかたぶく。いかんぞこはるまろのちゆうをえて、あにまさかどらがみをさつがいせざらむと。すなはちこはるまろをめしとりてあないをとふ。まうしていふ、「はなはだもつてかなり。いますべからくこなたのでんぷいちにんをたまはらむ。ゐてかへりてやうやうかなたのけしきをみせしめむ」とうんぬん。かのすけ、あいきようすることあまりありて、あづまのきぬいつぴきをめぐみたぶて、かたりていふ、「もしなんぢ、まことによりて、はかりてまさかどをがいせしめば、なんぢがかふのくるしきやくをはぶきて、かならずじやうばのらうどうとなさむ。なんぞいはむやこくまいをつみてもつていさみをまし、これにいふくをわかちてもつてしやうとせむ」てへり。

P107

こはるまろはたちまちしゆんめのししむらをくらひて、いまだかのしなむことをしらず。ひとへにちんどくのあまきにしたがひて、きえつきはまりなし。くだんのでんぶをひきゐて、したくのとよだのこほりおかざきのむらにかへる。そのみやうにちのそうてうをもつて、こはるまろとかのししやは、おのおのすみをになひて、まさかどのいはゐのえいしよにいたる。いちりやうじつしゆくゑいするのあひだ、ししやをまねきひきゐて、そのひやうぐのおきどころ、まさかどがよるののがれどころ、およびとうざいのうまうち、なんぼくのしゆつにふを、ことごとくみせしらしむ。ここにししやかへりまゐりて、つぶさにこのよしをあぐ。かのすけよしかねは、かねてようちのつはものをかまへて、どうねんじふにぐわつじふしにちのゆふべに、いはゐのえいしよにはつけんす。

P109

そのひやうるいは、いはゆるいちにんたうぜんのかぎりはちじふよき、すでにやういうのゆみをはり、〈 かんじよにいはく、やういうは、ゆみをとればすなはちそらのとりおのづからおち、ひやくをいるにひやくあたるものなり。 〉いよいよ、かいうのつぼやなぐひをおへり。〈 ゐなんじにいはく、ゆみのしあり、なはいげいといふ。げうくわうのときのひとなり。ときにじつかいのひあり。このひとすなはちくかいのひをいて、ちにいおとす。そのひにきんうあり。ゆゑにかいうとなづく。よつてじやうひやうのものにたとふるなり。 〉しゆんめのひづめをもよほし、〈 くわくはくいはく、しゆんめはうまれてみつかにして、そのははをこゆ。よつていちにちにいくことひやくりなり。ゆゑにしゆんめにたとふるのみ。 〉りりやうのむちをあげて、かぜのごとくにとほりゆき、とりのごとくにとびつく。すなはちゐのこくをもつて、ゆふきのこほりほふじやうじのあたりのみちにいでて、うちつくのほどに、まさかどがいちにんたうぜんのつはものあり。そらにようちのきしよくをしり、ごぢんのじゆうるいにまじりてじよこうす。さらにたれひとなるかをしらず。すなはちかものはしのうへより、ひそかにまへにうちたちて、いはゐのしゆくにはせきてりて、つぶさにことのよしをのぶ。しゆじゆうはおそれおぢて、だんぢよはともにさわぐ。

P114

ここにてきら、うのこくをもつておしかこむなり。ここにおいて、まさかどがつはものはじふにんにたらず。こゑをあげてつげていふ、「むかしききしかば、ゆきう〈 ひとのな 〉はつめをたてとして、もつてすまんのいくさにかちき。しちゆう〈 ひとのな 〉ははりをたてて、もつてせんかうのほこをうばひき。いはむやりりやうわうのこころあるをや。つつしむでなんぢらおもてをかへすことなかれ」と。まさかどまなこをはりはをかむで、すすみてもつてうちあふ。ときに、くだんのてきらはたてをすててくものごとくににげちる。まさかどはうまにかかりてかぜのごとくにおひせむ。これをのがるるものは、さながらねこにあへるねずみのあなをうしなへるがごとし。これをおふものは、たとへばきじをせむるたかのたかたぬきをはなるるがごとし。だいいちのやにじやうひやうたぢのよしとしをいとる。そののこりのものはきうぎうのいちもうにあたらず。そのひりくがいせられしものはしじふよにん、なほしのこれるものはてんめいをぞんしてもつてにげちりぬ。〈 ただしちゆうにんのこはるまろはてんばつありて、ことあらはれぬ。しやうへいはちねんしやうぐわつみつかをもつてほさつされすでにをはんぬ。 〉

P117

こののち、じようのさだもりみたびおのがみをかへりみらく、みをたてとくををさむるには、ちゆうかうよりすぎたるはなし。なをそんじりをうしなふは、じやあくよりはなはだしきはなし。せいれんのころほひも、はうしつにやどれば、せんけいのなをどうれつにとる。しかもほんもんにいはく「ぜんせいのひんぱうをうれへず、ただしあくみやうののちにつたはることをによぶ」てへり。つひにらんあくのちにめぐらば、かならずふぜんのなあるべし。しかじ、くわもんにいでてもつてつひにくわじようにのぼり、もつてみをたつせむには。しかのみならず、いつしようはただひまのごとし。せんざいたれかさかえむ。なほしぢきせいをあらそひて、たうせきをじすべし。いやしくもさだもりはみをおほやけにつかへて、さひはひにしばのれつにあづかれり。いはむやらうをてうかにつみ、いよいよ、しゆしのころもをはいすべし。そのついでにこころよくみのうれへをそうしをはらむと。

P120

じようへいはちねんはるにぐわつちゆうじゆんをもつて、せんだうよりきやうにのぼる。まさかどはつぶさにこのげんをききて、ばんるいにつげていはく、「ざんにんのおこなひはちゆうじんのおのれがうへにあることをそねむ。じやあくのこころはふつきのわがみにさきだたむことをなやむ。いはゆる、らんくわはもからむとおもふもしうふうこれをやぶる。けんじんはめいならむとおもふもざんじんこれをかくす。いま、くだんのさだもりは、まさかどがくわいけいいまだとげず。むくいむとおもふもわすれがたし。もしくわんとにのぼりなば、まさかどのみをざんせむか。しかじ、さだもりをおひとどめてこれをじうりんせむには」と。

P121

ただにひやくよきのつはものをひきゐて、くわきふにおひゆかしむ。にぐわつにじふくにちをもつて、しなののくにちひさがたのこほりのこくぶんじのへんにおひつく。すなはちちくまがはをたいして、かれこれかつせんするあひだ、せうぶあることなし。そのうちに、かなたのじやうひやうをさだのまき、やにあたりてしぬ。こなたのじやうひやうふんやのよしたて、やにあたるもいきたり。さだもりさひはひにてんめいありて、りよふのやじりをまぬがれてさんちゆうにのがれかくれぬ。まさかどちたびくびをかいてむなしくといふにかへりぬ。

P123

ここにさだもりは、せんりのかてを、いちじにうばはれて、たびのそらのなみだを、くさのめにそそぐ。つかれたるうまはうすゆきをねぶりてさかひをこえ、うゑたるじゆうはかんぷうをふくみてうれへのぼる。しかれどもせいぶんてんにありて、わづかにけいらくにいたる。すなはちどどのうれへのよしをしるして、だいじやうくわんにそうす。ただしおこなふべきのてんぱんをざいちのくににたまふ。

P125

さんぬるてんぎやうぐわんねんろくぐわつちゆうじゆんをもつて、きやうをくだるののち、くわんぷをいだきてあひただすといへども、しかもくだんのまさかどはいよいよ、ぎやくしんをほどこして、ますますぼうあくをなす。

そのうちに、すけのよしかねのあそん、ろくぐわつじやうじゆんをもつて、せいきよす。ちんぎんするのあひだに、むつのかみたひらのこれすけあそん、どうねんふゆじふぐわつをもつて、にんごくにつかむとするのついでに、せんだうよりしもつけのふにいたりつく。

さだもりとかのたいしゆとはちいんのこころあるによりて、あひともにかのあうしうにいらむとほつして、ことのよしをきかしむるに、「はなはだもつてかなり」と。すなはちかどでせむとするのあひだ、またしやうぐんはひまをうかがひておひきて、ぜんごのぢんをかこむ。やまをかりてみをたづぬ。のをふみてあとをもとむ。さだもりはてんのちからありてかぜのごとくにとほりくものごとくにかくる。たいしゆはおもひわづらひて、すててにんごくにいりぬ。

P128

そののち、あしたにはやまをもつていへとなす。ゆふべにはいしをもつてまくらとなす。きようぞくのおそれなほしふかく、ひじやうのうたがひいよいよませり。えいえいとしてくにのわをはなれず、とくとくとしてやまのふところをさらず。てんをあふぎてはせけんのやすからざることをくわんじ、ちにふしてはいつしんのたもちがたきことをによぶ。いちにはかなしび、ににはいたむ。みをいとふもすたれがたし。それとりのかまびすしきをききてはすなはちれいのてきのうそぶくかとうたがひ、くさのうごくをみてはすなはちちゆうじんのきたるかとおどろく。なげきながらたげつをはこぶ。うれへながらすじつをおくる。しかれどもけいじつかつせんのおとなく、やうやくたんぼのこころをやすむ。

P130

しかるあひだに、さんぬるじようへいはちねんはるにぐわつちゆうをもつて、むさしのごんのかみおきよのおほきみ、すけのみなもとのつねもと、あだちのこほりのつかさはんぐわんだいむさしのたけしばと、ともにおのおのふぢのよしをあらそふ。きくがごとくば、くにのつかさはぶだうをむねとなし、こほりのつかさはしやうりをちからとなす。そのよし、いかんとなれば、たとへばこほりのつかさたけしばは、ねんらい、こうむにかくごんにしてほまれありてそしりなし。いやしくもたけしばの、こほりををさむるのなは、すこぶるこくないにきこゆ。ぶいくのみちは、あまねくみんかにあり。

P132

よよのこくさいはぐんちゆうのけつぷをもとめず。わうわうのししはさらにごのたがふのけんせきなし。しかるにくだんのごんのかみは、しやうにんのいまだいたらざるのあひだ、おしてにふぶせむとす、てへり。たけしばは、あないをけんするに、このくにしようぜんのれいとして、しやうにんいぜんにたやすくにふぶするのいろにあらず、てへり。こくしはひとへにこほりのつかさのむらいをしようし、ほしいままにひやうぢやうをはつして、おしてにふぶするなり。たけしばはくじをおそるるがために、しばらくさんやにかくる。あんのごとくに、たけしばがしよしよのしやたく、えんぺんのみんかにおそひきたりて、うらをはらひてさがしとり、のこるところのしやたくは、けんぷうしてすてさりぬ。

P134

およそくだんのかみとすけのおこなはむことをみるに、しゆはすなはちちゆうわのおこなひをわきはさむ。〈  〉じゆうはすなはちさうせつのこころをいだけり。はしのごときのしゆうは、めをあはせてほねをやぶりあぶらをいだすのはかりごとをなす。ありのごときのじゆうは、てをわかちてたからをぬすみかくしはこぶのおもひをはげむ。あらあらこくないのしぼみつかれたるをみるに、へいみんそこなふべし。よつてくにのしよしやうら、ゑちごのくにのかぜをたづねて、あらたにふぢのけくわいつくわんをつくり、ちやうのまへにおとす。ことはみなこのこくぐんにおいてぶんみやうなり。たけしばすでにこほりのつかさのしよくをおぶといへども、もとよりこうそんのきこえなし。りよりやくせらるるところのしぶつを、かへしこふべきのよし、しばしばらんきよせしむ。しかれどもかつてべんじただすのまつりごとなく、しきりにかつせんのかまへをいたす。

P137

ときに、まさかどはにはかにこのよしをききて、じゆうるいにつげていはく、「かのたけしばらはわがきんしんのなかにあらず。またかのかみ、すけはわがきやうだいのすゑにあらず。しかれどもかれこれがらんをしづめむがために、むさしのくににむかひみむとおもふ」てへり。すなはちじぶんのひやうぢやうをひきゐて、たけしばがあたりののにつけり。たけしばまうしていはく、「くだんのごんのかみならびにすけらは、いつかうにひやうかくをととのへて、みなさいしをひきゐて、ひきのこほりさやきのやまにのぼる」てへれば、まさかどとたけしばとはあひともにふをさしてはつかうす。ときにごんのかみおきよのおほきみ、さきにたちてふがにいづ。すけつねもとはいまだやまのかげをはなれず。

P140

まさかどまたおきよのおほきみとたけしばと、このことをわせしむるのあひだに、おのおのすはいをかたぶけてたがひにえいぐわをひらく。しかるあひだにたけしばがごぢんとう、ゆゑなくしてかのつねもとがえいしよをかこむ。すけつねもとは、いまだへいのみちにねれず。おどろきさわいでぶんさんすといふこと、たちまちにふかにきこゆ。ときに、まさかどのらんあくをしづめむとするのほんいはすでにもつてあひたがひぬ。おきよのおほきみはこくがにとどまり、まさかどらはほんごうにかへりぬ。

P142

ここにつねもとがいだくところは、ごんのかみとまさかどとはこほりのつかさたけしばにもよほされて、つねもとをちゆうせむとするかとのうたがひをいだきて、すなはちにはかにふかきうらみをふくみてきやうとにのがれのぼる。よつておきよのおほきみまさかどらのくわいけいにむくいむがためにきよげんをしんちゆうにかまへて、むほんのよしをだいじやうくわんいそうす。これによりて、きやうぢゆうおほいにおどろき、じやういふしかしながらかまびすし。ここにまさかどのわたくしのきみだいじやうだいじんけにじつぴをあぐべきよしのみげうじよ、てんぎやうにねんさんぐわつにじふごにちをもつて、ちゆうぐうのせうしんたぢのまひとすけまさがところによせてくださるるのじやう、どうげつにじふはちにちにたうらいすとうんぬん。よつてまさかどはひたち、しもふさ、しもつけぬ、むさし、かみつけぬのごかこくのげぶみをとりて、むほんじつなきのよしを、どうねんごぐわつふつかをもつてごんじやうす。

P146

しかるあひだ、すけのよしかねのあそん、ろくぐわつじやうじゆんをもつて、やまひのとこにふにながら、びんぱつをていぢよして、そつきよしすでにをはんぬ。それよりののち、さらにことなることなし。しかるころほひに、むさしのごんのかみおきよのおほきみとしんしのくだらのさだつらとは、かれこれふわなり。いんあのなかにありながら、さらにちやうざせしめず。おきよのおほきみはよをうらみてしもふさのくににきしゆくす。そもそもしよこくのぜんじようによりて、まさかどのためにこうかあるべきのよし、きゆうちゆうにたばからる。さいはひにおんたくをかいだいにあみてすべからくゐせいをげこくにみたすべし。

P148

しかるあひだ、ひたちのくににきよぢゆうせるふぢはらのはるあきらは、もとよりくにのらんじんたり、たみのどくがいたり。のうせつにのぞみてはすなはちちやうまんのほすうをむさぼり、くわんもつにいたりてはすなはちそくはのべんさいなし。ややむすればこくがのつかひのきたりせむるをりやうれきし、かねてようみんのよわきみをこふりやくす。そのおこなひをみるときはすなはちいてきよりもはなはだしく、そのさうをきくときはすなはちとうぞくにともなへり。ときに、ちやうくわんふぢはらのこれちかあそん、くわんもつをべんさいせしむがために、どどのうつしてふをおくるといへども、たいかんをむねとなし、あへてふにむかはず。おほやけにそむきてはほしいままにまうしんをほどこし、わたくしにゐてはあながちにくにのうちをしへたぐ。ちやうくわんやうやくどどのあやまちをあつめ、くわんぷのむねによりて、ついぶせむとするのあひだ、にはかにさいしをひつさげて、しもふさのくにとよだのこほりにのがれてわたるのついでに、ぬすみわたるところのなめかた、かうちりやうぐんのふどうさうのもみほしいひとう、そのかずはこほりのつかさのたてまつるところのにつきにあり。

P151

よつてとらへおくるべきのよしのうつしてふをしもふさのくにあはせてまさかどにおくる。しかるにつねにてうまうのよしをしようして、かつてとらへわたすのこころなし。およそくにのためにすくせのかたきとなり、こほりのためにぼうあくのおこなひをはる。とこしなへにわうくわんのものをうばひ、さいしのにぎはひとなし、つねにじんみんのたからをかすめてじゆうるいのさかへとなす。まさかどはもとよりわびびとをたすけてきをのぶ。たよりなきものをかへりみてちからをつく。ときにはるあきら、かのかみこれちかのあそんのために、つねにらうれいのこころをいだきて、ふかくじやいんのどくをふくめり。あるときはみをかくしてちゆうりくせむとおもひ、あるときはちからをいだしてかつせんせむとおもふ。はるあきこころみにこのよしをまさかどにきこゆ。すなはちがふりよくせらるべきさまあり。いよいよ、ばつこのたけみをなして、ことごとくかつせんのみちをかまへ、ないぎすでにをはんぬ。くにのうちのかんくわをあつめ、さかひのそとのへいるいをおこして、てんぎやうにねんじふいちぐわつにじふいちにちをもつて、ひたちのくににわたる。

P153

くにはかねてけいごをそなへまさかどをあひまつ。まさかどのべていはく、「くだんのはるあきらを、こくどにすましめて、ついぶすべからざるのてふをくににたてまつる」と。しかるにしよういんせずしてかつせんすべきのよし、へんじをしめしおくる。よつてかれこれかつせんするのほどにくにのいくささんぜんにん、かずのごとくうちとられぬ。まさかどのずいびやうはわずかにせんよにん。ふかをおしつつむで、すなはちとうざいせしめず。ちやうくわんすでにくわけいにふくし、せうしまたふくべんけいくつしぬ。

P155

せけんのりようらは、くものごとくにくだしほどこし、みめうのちんざいは、さんのごとくにわかちさんじぬ。まんごせんのけんぷはごしゆのきやくにうばはれぬ。さんびやくよのいへのかまどはほろびていつたんのけぶりとなる。びやうぶのせいしはたちまちにかたちをあらはにするのはぢをとり、ふちゆうのだうぞくは、からくがいせらるるのあやぶみにあたる。きんぎんをゑれるくら、るりをちりばめたるはこ、いくせんいくばくぞ。そこばくのいへのたくはへ、そこばくのちんざい、たれかとり、たれかりようせむ。ぢやうがくのそうにはとんめいをふへいにこふ。わづかにのこれるしぢよはからきはぢをしやうぜんにみる。あはれむべし、こくりはにのひざをこひぢのうへにひざまづく。まさにいま、らんあくのひ、うけいにしにかたむき、はういつのあさ、いんやくをりやうじやうせらる。よつてちやうくわんせうしをおひたてて、ずいしんせしむることすでにをはんぬ。ちやうのしゆうはあいどうして、たちのうしろにとどまる。ばんるゐははいくわいして、みちのまへにまどふ。にじふくにちをもつて、とよだのこほりかまわのしゆくにかへる。ちやうくわんせうしを、いつかにすまはしむるに、めぐみいたはりをくはふといへども、しんしよくやすからず。

P160

ときにむさしのごんのかみおきよのおほきみ、ひそかにまさかどにたばかりていはく、「あないをけんせしむるに、いつこくをうつといへども、おおやけのせめかろからじ。おなじくはばんどうをりよりやくしてしばらくけしきをきかむ」てへり。まさかどほうじこたへていはく、「まさかどがおもふところもただこれのみ。そのよしなんとなれば、むかしはんそくわうじはてんのくらいにのぼらむとほつして、まづせんのわうのくびをとる。あるたいしはちちのくらゐをうばはむとほつして、そのちちをしちぢゆうのごくにくだせり。いやしくもまさかどはせつていのべうえいにして、さんぜのばちえふなり。おなじくははつこくよりはじめて、かねてわうじやうをりよりやうせむとおもふ。いますべからくまづしよこくのいんやくをうばひて、いつかうにずりやうのかぎりをくわんとにおひあげてむ。しかればすなはちかつはたなごころにはつこくをいれ、かつはこしにばんみんをつけむ」てへり。たいぎすでにをはんぬ。

P162

 

『将門記』真福寺本 原文

『将門記』真福寺本評釈の影印より 底本通り改行してあります。ページ数を記しました。

 

P031

 裏等野本  扶等、張陣相待將門。遙見彼軍之

體、所謂向纛崛之神、靡旗擊鉦。〈 纛崛者、兵具也、以獸毛作之。鉦者、兵鼓也、諺云布利豆々美也。 〉

爰將門欲罷不能、擬進無由。然而勵身勸據、交刃

合戰矣。將門幸得順風、射矢如流、所中如案。扶等雖

勵、終以負也。仍亡者數多、存者已少。+

P038

 以其四日、始自野本・

石田・大串・取木等之宅、迄至與力人々之小宅、皆悉燒巡。

〔蟄屋燒者迷煙不去、〕遁火出者驚矢而還、入火中叫喚。

  於  之中千年之貯、伴於一時炎。又筑波・

真壁・新治三箇郡、伴類之舍宅五百餘家、如員燒掃。哀

哉、男女為火成薪。珍財為他成分。三界火宅財有五主、去來

不定、若謂之歟。其日火聲、論雷施響。其時煙色、爭

雲覆空。山王交煙、隱於巖後。人宅如灰、散於風前。國吏

萬姓視之哀慟、遠近親疏聞之嘆息。中箭死者不意

別父子之中、棄楯遁者不圖離夫婦之間。

P045

 就中、貞

盛進身於公、事發以前、參上於花城。經迴之程、具

由聞於京都。仍彼君、案物情、貞盛寔與彼前大

掾源護并其諸子等、皆同黨之者也。然而未躬與

力、偏被編其緣坐。嚴父國香之舍宅、皆悉殄

滅、其身死去者。迴聆此由、心中嗟嘆。於財有五

主者、何憂吟之。但哀、亡父空告泉路之別、存母

獨傳山野之迷。朝居聞之、淚以洗面。夕臥思

之、愁以燒胸。+

P048

 貞盛、不任哀慕之至、申暇於公、

歸於舊鄉。僅着私門、求亡父於煙中、問遺母

於巖隈。幸雖預司馬之級、還吟別鶴之傳。方

今、以人口尋得偕老之友。以傳言問取連理之徒。
烏呼哀哉、着布冠於埼宦A結菅帶於藤衣。冬

去春來、漸失定省之日。歲變節改、僅遂周

忌之願。+

P050

 貞盛倩檢案內、凡將門非本意敵、斯

源氏之緣坐也。〈 諺曰、賤者隨貴、弱者資強、不如、敬順。 〉茍貞盛在守

器之職。須歸官都、可搖ッ勇。而孀母在堂、非子

誰養。田地有數、非我誰領。睦於將門、通芳操於

花夷、流比翼於國家。仍具挙此由、慇斯可者。+

P053

 乃擬對面之間、故上總介高望王之妾子平良

正、亦將門次之伯父也。而介良兼朝臣與良正兄弟

之上、乍兩、彼常陸前掾源護之因緣也。護常

嘆息子扶・隆・繁等為將門被害之由。然而介

良兼居於上總國、未執此事。良正獨追慕因緣、如

車舞迴於常陸地。+

P055

 爰良正偏就外緣愁、卒忘內

親之道。仍企干戈之計、誅將門之身。于時良正

之因緣、見其威猛之勵、雖未知勝負之由、兼莞

爾熙怡而已。〈 字書曰、莞爾者、倭、言都波惠牟也。上音官反、下音志反。熙怡者、倭、言與呂古布也。上音伎、下音伊反。 〉任理負楯、依實立出。將門、傳聞此言、以承平五

年十月廿一日、忽向彼國新治郡川曲村。則良將、揚

聲如案討合、棄命各合戰。然而將門有運既勝、良

正無運遂負也。射取者六十余人、逃隱者不知其數。

然以其廿二日、將門歸於本鄉。+

P059

 爰良正并因緣伴

類、下兵恥於他堺、上敵名於自然。懟動寂雲之心、

暗追疾風之影、〈 書曰、懟者、阿知支奈久。 〉然而依於會稽之深、尚發

敵對之心。仍勒不足之由、舉於大兄之介。其狀云:「雷

電起響、是由風雨之助。鴻鶴凌雲、只資羽翔之

用也。羨被合力鎮將門之亂惡。然則國內之騷自

停、上下之動必鎮者。」+

P061

 彼介良兼朝臣、開吻云:「昔之

惡王、尚犯害父之罪。今之世俗、何忍強甥之過。

舍弟所陳、尤不可然也。其由、何者、因緣護掾、頃年、

有所觕愁、茍良兼為彼姻婭之長、豈無與力

之心哉。早整戎具、密可相待者。」良正勵得水之

龍心、成李陵之昔勵。+

P063

 聞之、先軍被射者、治痕

而向來。其戰遁者、繕楯會集。而間、介良兼調

兵張陣。以承平六年六月廿六日、指常陸國、如雲涌

出上下之國、〈 言上總・下總也。 〉雖加禁遏、稱問因緣、如遁飛

者。不就所々關、自上總國武射郡之少道、到着

於下總國香取郡之神前。自厥渡着常陸國信

太郡其崎前津。以其明日早朝、着於同國水守

營所。+

P066

 斯雞鳴、良正參向、述不審。其次貞盛依

有疇昔之志、對面於彼介。々[*底本:之]相語云:「如聞、我

寄人與將門等慇懃也者。斯非其兵者。兵以名

尤為先。何令虜領若干之財物、令殺害若干

之親類、可媚其敵哉。今須與被合力、將定是非。」

云。貞盛依人口之甘、雖非本意、暗為同類、指下

毛野國、地動草靡、一列發向。+

P068

 爰將門依在機急、

為見實否、只率百餘騎、以同年十月廿六日、打

向於下毛野國之堺。依實、件敵有數千許。畧見

氣色、敢不可敵對。其由何者、彼介未費合戰

之遑。人馬膏肥、干戈皆具。將門被摺度々

之敵、兵具已乏、人勢不厚。敵見之、如垣築楯、

如切攻向矣。將門未到、先寄步兵、畧令合戰。且射

取人馬八十余人也。彼介大驚怖、皆挽楯逃還。將

門揚鞭稱名、追討之時、敵失為方偪仄府下。〈 傳曰、偪仄

者、倭、言伊利古萬留也。 〉+

P070

 於斯、將門思惟、允雖不在常夜之敵、尋

脉不疎。建氏骨肉者。所云、夫婦者親而等瓦、親

戚者疎而喻葦。若終致殺害者、若物譏在遠

近歟。仍欲逃彼介獨之身、便開國廳西方之

陣、令出彼介之次、千餘人之兵、皆免鷹前之

鴙命、急成出籠之鳥歡。厥日、件介無道合戰之

由、觸於在地國、日記已了。以其明日、歸於本堵。+

P073

 自茲以來、

更無殊事。然間、依前大掾源護之告状、件護并犯人

平將門及真樹等可召進之由官符、去承平五

年十二月廿九日符、同六年九月七日到來。差左近衛

番長正六位上英保純行、同姓氏立、宇自加支興等、

被下常陸・下毛・下總等之國。仍將門告人以前、同

年十月十七日、火急上道。便參公庭、具奏事由。幸蒙

天判、於檢非違使所被略問、允雖不堪理務、佛神有感、

相論如理。何況一天恤上、有百官顧。所犯准輕、罪過

不重。振兵名於畿内、施面目於京中。

P076

 經廻之程、乾徳

降詔、鳳暦已改。〈 言、帝王御冠服之年、以承平八年、改天慶元年、故有此句也。 〉故松色含千年

之緑、蓮糸結十善之蔓[*底本:〓]。方今、萬姓重荷、輕於大赦、

八虐大過、淺於犯人。將門幸遇此仁風、依承平

七年四月七日恩詔、罪無輕重、含ス靨於春花、賜還

向於仲夏。忝辭燕丹之遑、終歸嶋子之墟。〈 傳言、昔、燕丹事

於秦皇、遙經久年。然後、燕丹請暇歸古郷。即秦皇仰曰、「縱烏首白、馬生角時、汝聽還者。」燕丹歎、仰天烏為之首白、俯地馬為之

生角。秦皇大驚、乃許歸。又嶋子者、幸雖入常樂之國、更還本郷之墟。故有此句也。子細見本文也。 〉所謂、馬

有北風之愁、鳥有南枝之悲。何況、人倫於思、何

無懷土之情〔哉〕。仍以同年五月十一日、早辭都洛、着弊

宅。

P080

 未休旅脚、未歷旬月、件介良兼、不忘本意之怨、尚

欲遂會稽之心。頃年所構兵革、其勢殊自常。便以

八月六日、圍來於常陸・下總兩國之堺子飼之

渡也。其日儀式、請靈像、而前陣張。〈 言靈像者、故上總介高茂王形、并故陸奧

將軍平良茂形也。 〉整精兵而襲攻[*底本:政]將門。其日、明神有忿、慥非

行事。隨兵少上、用意皆下、只負楯還。爰彼介、

燒掃下總國豐田郡栗栖院常羽御厩及百姓舍

宅。于時、晝、人宅甑收、而奇灰、滿於毎門。夜、民烟

絕煙、漆柱、峙於毎家。煙遐如掩空之雲、炬邇似

散地之星。以同七日、所謂敵者奪猛名而早去、+

P084

 將門

懷酷怨而暫隱矣。將門偏欲揚兵名於後代、亦

變合戰於一兩日之間、所構鉾三百七十枚、兵士

一倍。以同月十七日、同郡下大方郷堀越渡固陣相

待。件敵叶期、如雲立出、如電響致。其日、將門

急勞脚病、毎事朦朦。未幾合戰、伴類如算打散。

所遺民家、為仇皆悉燒亡。郡中稼稷、人馬共被

損害。所謂千人屯處、草木倶彫者、只於斯云矣。

P087

 以登時、將門為勞身病、隱妻子共宿於幸[*底本:辛]嶋郡

葦津江邊。依有非常之疑、載[*底本:戴]妻子於船、泛於廣河

之江、將門帶山居於陸閑岸。經一兩日間、件敵、以十

八日、各分散。以十九日、敵介取幸[*底本:辛]嶋道、渡於上總

國。

P090

 其日、將門之婦乘船寄彼方岸之。于時、彼敵

等、得媒人之約、尋取件船。七、八艘内、所被虜掠雜

物資具、三千余端。妻子同共討取。即以廿日、渡於上

總國。爰將門妻去、夫留、忿怨不少。其身乍生、其魂

如死。雖不習旅宿、慷慨假寐、豈有何益哉。妾恒存

真婦之心、與幹朋欲死。夫則成漢王之勵、將欲尋

楊家。+

P093

 廻謀之間、數旬相隔。尚懷戀處、無相逢之期。然

間、妾之舍弟等、成謀、以九月十日、竊令還向於豐田郡。

既背同氣之中、屬本夫家。譬若遼東之女隨夫令

討父國。件妻、背同氣之中、逃歸於夫家。然而、將門尚

與伯父為宿世之讎、彼此相楫。

P097

 時介良兼、依有因

縁、到着於常陸國也。將門僅聞此由、亦欲征伐。所備

兵士千八百余人、草木共靡。以十九日、發向常陸

國真壁郡。乃始自彼介服織乃宿、與力伴類舍宅、

如員掃燒。一兩日之間、追尋件敵。皆隱高山、乍有

不相。逗留之程、聞有筑波山。以廿三日、如員立出。

依實、件敵從弓袋之山南谿、遙聞千余人之聲。

山響草動、軯諊諠譁。+

P099

 將門固陣築楯、且送簡牒、

且寄兵士。于時、律中孟冬、日臨黃昏。因茲、各各

挽楯、陣々守身。自昔迄今、敵人所苦、晝則掛箭

以盻人矢所中、夜則枕弓以危敵心所勵。風雨

之節、蓑笠為家。草露之身、蚊虻為仇。然而各

為恨敵、不憚寒溫、合戰而已。其度軍行、頗有

秋遺。敷稻穀於深泥、渉人馬於自然。飽秣斃牛

者十頭、醉酒被討者七人。〈 真樹陣人、其命不死。 〉謂之口惜哉、燒

幾千之舍宅。想之可哀、滅何萬之稻穀。終不逢其

敵、空歸於本邑。

P103

 厥後、以同年十一月五日、介良兼、

掾源護、并掾平貞盛、公雅、公連、秦清文、凡常陸

國〔敵〕等、可追捕將門官符[*底本:府]、被下武藏・安房・上總・

常陸・下毛野等之國也。於是、將門頗述氣附力。

而諸國之宰、乍抱官符、慥不張行、好不堀

求。而介良兼、尚銜忿怒之毒、未停殺害

之意。求便伺隙、終欲討將門。

P105

 于時、將門之駈使

丈部子春丸依有因縁、屡融於常陸國石田

庄邊之田屋。于時、彼介心中以為、〈 字書曰、以為者、於牟美良久。 〉讒釼破

巖、屬請傾山。盍得子春丸之注、豈殺害將門等

之身。即召取子春丸問案内。申云、「甚以可也。今須賜

此方之田夫一人、將罷漸々令見彼方之氣色。」云々。

彼介、愛興有餘、惠賜東絹一疋、語云、「若汝依實

令謀害將門者、汝省荷夫之苦役、必為乘馬之郎

頭。何況積穀米以摎E、分之衣服以擬賞者。」+

P107

 子春

丸忽食駿馬之宍、未知彼死。偏隨鴆毒之甘、喜ス

罔極。率件田夫、歸於私宅豐田郡岡崎之村。以其明日

早朝、子春丸彼使者、各荷炭、而到於將門石井之

營所。一兩日宿衛之間、麾[*底本:摩]率使者、其兵具置所、將門

夜遁所、及東西之馬打、南北之出入、悉令見知。爰使

者還參、具挙此由。彼介良兼、々構夜討之兵、同年

十二月十四日夕、發遣於石井營所。+

P109

 其兵類、所謂

一人當千之限八十余騎、既張養由之弓、〈 漢書曰、養由

者、執弓則空鳥自落、百射百中也。 〉彌、負解烏之靫、〈 淮南子曰、有弓

師、名曰夷翌、堯皇時人也。時十介〔之〕日、此人即射九介之日、射落地。其日有金烏、故名解烏。仍喻於上兵者也。 〉催駿馬之

蹄、〈 郭璞曰、駿馬生三日而超其母。仍一日行百里也。故喻於駿馬而已。 〉揚[*底本:楊]李陵之鞭、如風

徹征、如鳥飛着。即以亥尅、出結城郡法城寺

之當路、打着之程、有將門一人當千之兵。暗知

夜討之氣色、交於後陣之從類徐行。更不知誰人。

便自鵝鴨橋上、竊打前立、而馳來於石井之宿、

具陳事由。主從憁忙、男女共囂。

P114

 爰敵等、以

卯尅押圍也。於斯、將門之兵、十人不足。揚聲

告云、「昔聞者、由弓、〈 人名。 〉楯爪、以勝於數萬之軍。子

柱、〈 人名。 〉立針、以奪千交之鉾。況有李陵王之心。慎

汝等而勿面歸。」將門張眼嚼齒、進以撃合。

于時、件敵等棄楯如雲逃散、將門羅馬、而

如風追攻矣。遁之者宛如遇貓之鼠失穴、追之

者譬如攻鶏之鷹離韝。第一之箭、射取上兵

多治良利。其遺者不當九牛之一毛。其日被戮

害者〓餘人、猶遺者存天命以遁散。〈 但、注人子春丸有天

罰、事顯。以承平八年正月三日被捕殺已了。 〉

P117

 此後、掾貞盛三顧己身、立

身修徳、莫過於忠行。損名失利、無甚於邪

惡。清廉之比、宿於蚫室、羶奎之名、取

於同烈。然本文云、「不憂前生貧報、但吟

惡名之後流者。」遂巡濫惡之地、必可有不善

之名。不如、出花門以遂上花城、以達身。加

之、一生只如隙、千歲誰榮。猶爭直生、可辭盜

跡。苟貞盛奉身於公、幸預於司馬烈。況積

勞於朝家、彌可拜朱紫之衣。其次快奏身愁

等畢、+

P120

 以承平八年春二月中旬、〔自〕山道京上。

將門、具聞此言、告伴類云、「讒人之行、憎忠人之在己

上。邪[*底本:耶]惡之心、嫐富貴之先我身。所謂、蘭花

欲茂、秋風敗之。賢人欲明、讒人隱之。今、件

貞盛、將門會稽未遂、欲報難忘。若上官

都、讒將門身歟。不如、追停貞盛、蹂躪之。」

P121

 啻率百餘騎之兵、火急追征。以二月廿

九日、追着於信濃國小[*底本:少]縣[*底本:懸]郡國分寺之邊。

便帶千阿川、彼此合戰間、無有勝負。厥

内、彼方上兵他田真樹、中矢而死。此方上兵文室

好立、中矢生也。貞盛幸有天命、免呂布之

鏑、遁隱山中。將門千般搔首、空還堵邑。

P123

 爰

貞盛、千里之粮、被奪一時、旅空之涙、灑於

草目。疲馬舐薄雪而越堺、飢從含寒風

而憂上。然而生分有天、僅屆京洛。便錄度

々愁由、奏太[*底本:大]政官。可糺行之天判、賜於在

地國。+

P125

 以去天慶元年六月中旬、京下之後、

懷官符雖相糺、而件將門彌施逆心、倍為暴

惡。厥内、介良兼朝臣、以六月上旬、逝去。

沈吟之間、陸奧守平維扶朝臣、以同年冬

十月、擬就任國之次、自山道到着於下

野之府。貞盛與彼太守依有知音之心、相

共欲入於彼奧州[*底本:洲]、令聞事由、「甚以可也。」

乃擬首途之間、亦將門伺隙追來、固前後

P126

之陣。狩山而尋身、踏野而求蹤。貞盛有

天力而如風徹如雲隱。太守思煩、棄而入任國

也。

P128

 厥後、朝以山為家、夕以石為枕。兇賊之恐

尚深、非常之疑彌倍。〓々不離國輪、匿々不

避山懷。仰天觀世間〔之〕不安、伏地吟一身之

難保。一哀二傷、厭身難廢[*底本:癈]。厥聞鳥喧則疑

例敵之噦、見草動則驚注人之來。乍

嗟運多月、乍憂送數日。然而頃日無合戰之

音、漸慰旦暮[*底本:慕]之心。

P130

 然間、以去承平八年春

二月中、武藏〔權〕守興世王・介源經基、與足立郡

司判官代武藏武芝、共各爭不治之由。如聞、

國司者無道為宗、郡司者正理為力。其由、何者、縱

郡司武芝、年來、恪僅公務、有譽無謗。苟

武芝、治郡之名、頗聽國内。撫育之方、普在民家。

P132

代々國宰不求郡中之欠負、往々刺史[*底本:吏]更

無違期之譴責。而件權守、正任未到之間、推擬

入部者。武芝、檢案内、此國為承前之例、正

任以前、輙不入部之色者。國司偏稱郡司之無禮、

恣發兵仗、押而入部矣。武芝為恐公事、暫匿

P133

山野。如案、襲來武芝之所々舍宅、縁邊之民家、掃

底搜取。所遺之舍宅、檢封棄去也。+

P134

 凡見

件守介行事、主則挾仲和之行、〈 花陽國志曰、仲和者為太守、

重賦貪財漁[*底本:〓]國内之也。 〉從則懷草竊之心。如箸之主、合眼而成

破骨出膏之計。如蟻之從、分手而勵盜財隱

運之思。粗見國内彫弊、平民可損。仍國書

生等、尋越後國之風、新造不治悔過一卷、落於

廳前。事皆分明於此國郡也。武芝已雖帶郡司

P135

之職、本自無功損之聆。所被虜掠之私物、可

返請之由、屡令覧挙。而曾無弁糺之政、頻致合戰

之構。+

P137

 于時、將門急聞此由、告從類云、「彼武芝等非我

近親之中、又彼守介非我兄弟之胤、然而為鎮彼

此之亂、欲向相〔於〕武藏國者。」即率自分之兵杖、就武

P138

芝當野。武芝申云、「件權守并介等、一向整兵革、

皆率妻子、登於比企郡狹服山者。」將門・武芝相

共指府發向。于時、權守興世王、先立而出於府衙。

介經基未離山陰。+

P140

 將門且興世王與武芝、令和此

事之間、各傾數坏迭披榮花。而間、武芝之後陣

等、無故而圍彼經基之營所。介經基、未練兵道。驚

愕分散云。忽聞於府下。于時、將門鎮濫[*底本:監]惡之本意、

既以相違。興世王留於國衙、將門等歸於本郷。+

P142

 爰經基所

懷者、權守〔與〕將門被催郡司武芝、抱擬誅經基[*底本:碁]之

疑、即乍含深恨、遁上京都。仍為報興世王・將門等之

P143

會稽、巧虚言於心中、奏謀叛之由於太〔政〕官。因之、京

中大驚、城邑併囂。爰將門之私君太[*底本:大]政大臣家可挙

實否之由御教書、以天慶二年三月廿五日、寄於

中宮少進多治真人助真所被下之状、同月廿八日

到來云々。仍將門取常陸・下總・下毛野・武藏・上毛野五

箇國之解文、謀叛無實之由、以同年五月二日言上。+

P146

 而

間、介良兼朝臣、以六月上旬、乍臥病床、剃除鬢髮、卒[*底本:率]去

已了。自爾之後、更無殊事。而比、武藏權守興世王與新

司百濟貞連彼此不和[*底本:知]。乍有姻唖之中、更不令廳

坐矣。興世王恨世、寄宿於下總國。抑依諸國之善状、

為將門可有功之由、被議於宮中。幸沐恩澤[*底本:〓]於

海内、須滿威勢於外國。+

P148

 而間、常陸國居住藤原

玄明等、素為國〔之〕亂人、為民之毒害也。望農節則

貪町滿之歩數、至官物則無束把之弁濟。動

凌轢國使之來責、兼劫略庸民之弱身。見其行

則甚於夷狄、聞其操則伴於盜賊。于時、長官

藤原維幾朝臣、為令弁濟官物、雖送度々移牒、

對捍為宗、敢不府向。背公〔而〕恣施猛惡、居私而強冤

P149

部内也。長官稍集度々〔之〕過、依官符之旨、擬追捕[*底本:補]之

間、急提妻子、遁渡於下總國豐田郡之次、所盜

渡行方・河内兩郡不動倉穀糒等、其數在郡司

所進之日記也。+

P151

 仍可捕送之由移牒送於下總國并

將門。而常稱逃亡之由、曾無捕渡之心。凡為國成宿

世之敵、為郡張暴惡之行。鎮奪往還之物、為妻子之

稔、恒掠人民之財為從類之榮也。將門素濟侘人而

述氣、顧無便者而託力。于時玄明等、為彼守維幾朝

臣、常懷狼戻之心、深含蛇飲之毒。或時隱身欲誅戮[*底本:〓]、

或時出力欲合戰。玄明試聞此由於將門、乃有可被合

P152

力之樣。彌、成跋〓[足+扈]之猛、悉構合戰之方、内議已訖。集

部内之干戈、發堺外之兵類。以天慶二年十一月廿一

日、渉於常陸國。+

P153

 々兼備警[*底本:驚]固相待將門。々々陳云、「件玄

明等、令住國土、不可追捕之牒奉國。」而不承引可合

戰之由、示送返事。仍彼此合戰之程國軍三千人、如員

P154

被討取也。將門隨兵僅千余人。押塘府[*底本:符]下、便不令東西。

長官既伏於過契、詔使復伏弁敬屈。+

P155

 世間綾羅、如雲

下施、微妙珍財、如算分散。萬五千之絹布、被奪五主

之客。三百余之宅烟、滅作於一旦之煙。屏風之西施

急取裸形之〓[女+鬼]、府中之道俗酷當為害之危。金銀彫

鞍、瑠璃塵匣、幾千幾萬。若干家貯、若干珍財、誰採誰

領矣。定額僧尼請頓命於夫兵。僅遺士女見酷〓[女+鬼]於生

前。可憐、別駕[*底本:賀]捫紅涙於緋襟。可悲、國吏跪二膝於泥

上。當今、濫惡之日、烏景西傾、放逸之朝、領掌印鎰。

仍追立長官詔使、令隨身既畢。廳衆哀慟、留於館後。

伴類徘徊、迷於道前。以廿九日、還於豐田郡鎌輪之宿。長

P156

官詔使、令住一家、雖加愍勞、寢[*底本:〓]食不穩。+

P160

 于時、武藏權

守興世王、竊議於將門云、「令檢案内、雖討一國、公責不輕。

同虜掠坂東、暫聞氣色者。」將門報答云、「將門所念、啻

斯而已。其由何者、昔斑[*底本:班]足王子欲登天位、先殺千王頸。

或太子欲奪父位、降其父七重之獄。苟將門剎帝

苗裔、三世之末葉也。同者始自八國、兼欲虜領王城。

今須先奪諸國印鎰、一向受領之限、追上於官堵。然

則且掌入八國、且腰附萬民者。」大議已訖。

P162

 

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