岡山大学本平家物語 長門本 2020.08.16.日

凡例 底本 

【翻】『岡山大学本平家物語 二十巻 一〜五』 岡山大学池田家文庫等刊行会・森岡常夫。福武書店・昭和5052。底本・岡山大学蔵池田侯御筆本。付・校異・解題・国書刊行会本との対照表。本文部分に赤間神官本の現存部分を示す。

 

 平家物語巻第一 (全) 01

 平家物語巻第二  

P1085

    ▽    △

   平家物語巻第二

師高焼払温泉寺事

 

白山神輿振上山上事

   △

牒状等事

 ▽△

院宣事

 ▽         △

後二条関白依山王崇薨御事

  ▽   △

高松女院御隠事

     ▽△

建春門院御隠事

 

日吉神輿入洛間頼政問答事

      (巳)

「樋口冨小路焼己事

 (卿) ▽   △

時忠郷被立山上勅使事

  ▽    △

師高被解官流罪事

 ▽     △

明雲僧正被流罪事

 ▽    △

多田蔵人返中事

P1086

西光法師被召取事

 (卿)  △

成親郷被召取事

 

   ▽

 T 北面は上古にはなかりけり・しら河院の御時はじめをかれて・ゑふどもあまた候けり 2

・ためとし・もりしげ・わらはべより千じゆ丸・今犬丸とてきりものにてありけり・千手

丸は三浦、のちにはするがのかみ・いま犬まろは周防のくにのぢう人、後にはひごのかみ

・鳥羽院の御時も・すゑのり源ざゑもんの大夫、しそくやすすゑかわちの守、同季より大

大尉、父子ちかくめしつかはれて、でん奏するおりもありと聞えしかども、みな身のほど

T をばふるまいてこそありしに、此御時のほくめんのものどもは、ことのほかにくわぶん 2

にて、公卿、殿上人をも物ともせず・礼儀もなかりけり・下北めんより上ほくめんにうつ

り・上ほくめんより・殿上をゆるさるゝものもありけり・かくのみあるあひだ・おごれる

心どもありけり・その中に故少納言入道のもとに・もろみつ・なり景といふものありけ

り・ことねりわらは、もしはかくごしやなどのけしかるものどもなりけれども・さか<

しかりければ・院の御めにもT かゝりて・めしつかはれけり・少納言入道の事にあひし時 3

・二人ともに出家して、ほう名の一字をかへて・さゑもん入道西光・右衛門入だう西景と

△ ▽                一    △   ▽

ぞいひける・二人ながら御蔵あづかりにてめしつかはれける。その西くわうが子にもろた

P1087

かも・きりものにてありければ・けんびいし五位尉までなりて・安元元年十二月廿九日、

追儺除目に・かゞのかみに任てこくむをおこなふ間・さま<のひほうひれゐ張行せしあ

まりに、神社、仏寺、けんもん、せいけT の庄領をたふし、さん<の事どもにてぞあり 3

      邵 公 ▽    △             ▽

ける。たとひせう公があとをへだつとも、をむびんのまつりごとをこそおこなふべかりし

に・よろづ心のまゝにふるまいし程に・同二年八月に・白山末寺にうんせん寺といふ山寺

にいでゆあり・かの湯にもく代むまをひき入てあらひけるを・大しゆ申けるは・是は白山

ごむげんの・一さいしゆじやうのしゆ病のくすりのために・いだし給ところの出湯なり・

かたじけなき所に・むまを引入てあらふT 事らうぜきなりとせいしをくはう・なをきか 4

                            長 吏

ず。しかるあひだ大しゆおこりて・白山中宮八院三社のそうちやうり・ちしやく・かくめ

いら・ちやうぼんとして・とねりおとこがもとゞりをきり・むまの尾きりておいはなつ・

           △  ▽             二  三△      ▽

目代申けるは、馬のゆあらひれゐなくば・何度もせいしをこそくはうべけれ。さうなくむ

まの尾をきるべきやうやある・はぢあるものゝ乗むまのおをきる事、もとゞりをきるにお

                 国

なじといふ。やすからぬ事なりとて、こく方よりT 大ぜいをそろへておしよせて、うん泉 4

                            ▽

           ▽    △           四      金 台

寺のぼうじやをやきはらふ・此事によて八院の大しゆの中に、秀衡がまごに・こんたいぼ

うを・大しやうぐんとして・明たいぼう・しつ大房・のと房・かゞぼう、ゑちぜん房・お

                            五

なじき白山の大しゆ五百よきにて・かゞの国府へおしよせて・かうだうにたてこもりて・

巻第二ハ九行詰。

一 めしつかはれける

 (山)(内)めしつかはれけり。

二 はう

 (赤)「はう」ノ右ニ「わふ」ト傍

 書。

三 へけれ

 (赤)「へ」ニ声点。

四 秀衡

 (赤)「しう衡」トシテ「しう」ノ左

 ニ朱線。

五 かうたう

 (赤)「た」ニ声点。

P1088

庁へつかゐをたてたれば・目代はひが事しつとや思けむ・庁屋にもとまらずして・にげて

京へぞのぼりにける・大衆ちからおよばで・T それより帰てせんぎしけるは・此所はほん 5

  △ ▽       一             △ ▽

ざんの末寺なり・しよせんえいざんへうつたへ奉らん・もしそせうかなはぬものならば・

我らながくしやうどへ帰らじと・一同にせんぎして・しんすい、仏水をのみ・同年八月

に・白山の早松の御こしをかぎり奉、むねとの大しゆ三百余人・御こしをさゝげ奉て上洛

  ▽           △           ▽    △二専

す。当時の天台座主は・めいうむそう正にておはします・此事聞給ひて、せん当法師、宮

仕法師二人をもて、当時は院の御T くまのまうでなり。上洛せられたりとも、御さい許あ 5

るベからず。とく<是より帰られて、御悦の時、上らくせらるべきよし仰られけれど

も・白山の大しゆなをきかず・めいうん僧正此事を聞給ひて、門ぜきの大衆四十よ人さし

くだして・早松の御こしをばうばいとり・かねがさきのくわんをんだうにやすめ奉り・白

山の大しゆを追返す・しゆとらよりあひて歎けるは・我等此そせうかなはずば・ながくし

やうどへ帰らじとちかひたるに・いつしかT つるがの津より帰らん事こそくちをしけれ・ 6

                   ず

いかゞすべき・われら生土へかへるべからじと一どうに神水仏水をのみつ・おしてのぼる

べしとて・八月五日宇河を立て・くわんじやう寺につき給。御ともの大衆すでに一千よ人

なり・くわん成寺よりおなじき六日、ほとけが原、金剣宮へいらせ給ふ。こゝに一両日と

う留す・同九日留す所より牒状あり。使者には橘次郎太夫則次・但田次郎太夫忠利等也。

P1089

 留守所、牒白山中宮衆徒衡

  T 欲早停止衆徒参洛事                              6

                     (訟)

 ス        ▽   △       ヲ         ▽         シ

 牒二奉捧神輿一、衆徒企二参洛一。令レ致二訴詔一事之趣、非レ無二不審一。因レ茲差二−遣在庁忠

 ヲ  △    ヲ ▽  メニ   ヲ   ムル   △シ リ  ▽     ノ  ニ四

 利一、尋二−申子細一之処、為二石井法橋訴申一令二参洛一之由、有二返答一云々。 此条理豈不レ

         △

     カテ  ニ    ▽ シ  ヲ   シシテ   ト  キ   △   ▽(訟) テ

 可レ然。争依二小事一、可レ奉レ動二大神一哉。若為二国之沙汰一、可レ為二裁−許一訴詔歟、者賜二

              △

 ノ  ヲ        ラクハ▽ヲ

 其解−状一可二申上一也。乞哉察状、以牒。

  安元三年二月九日                       散位財部朝臣

                                T 散位大江朝臣 7

                                  散位源朝臣

                                      △

                                  目代源朝臣

とぞ書たりける。依之衆徒返牒在状云、

 白山中宮大衆政所返牒 留守所 衙

  来牒一紙被載送神輿御上洛事

 ス   ▽           ルニ△

 牒、今月九日牒、同日到来、依レ状案二子細一、

             △

       ▽    ヲ   五セシメ玉フ

在二神明和合一而黙二定吉日一、進二発 旅

                        ヲ         セノ    二

路次一。以二人力一不可レ成敗之一。冥貴豈不レ恐レ之T 哉。仍以後日任二牒返之状一。子細状如件。 7

 安元三年二月九日              大衆等

一 えいさん

 (赤)「さ」ニ声点。

二 せん当

 (赤)傍書「専」ノミ判読可能。

三 くわんしやう寺

 (赤)「く」「し」ニ声点。

四 不レ可レ然

 (赤)不レ可レ然一。

五 セシメ玉フ

 (赤)「セシメ」判読可能。

P1090

    ▽   (椎)       △   ▽                △

同十日仏原を出て、推津へつかせ給ふ・同日又留守所より使二人あり・税所大夫成貞、橘

  ▽             △  ▽               一落馬

次郎大夫則次等・野代山に大衆の後陣にをいつきたり・すなはち、件のししやらくばして

 

又むまのあしおれたり・是をみてしゆといよ<神力をとる・同十一日に二人のつかゐ、

(椎)△ ▽                   ▽

 推津に到来す・あへて返牒なし。こと葉をもて使者T 神よをとゞめ奉るといへども・事と 8

                     △ ▽

もせず上洛す・めいうむそう正かさねて奉留、神輿守護衆徒状云、

  謹請 延暦寺御寺牒

     ラント  ヲ    ケ ヲ  ニ

   欲下被レ裁中許奉レ振二上神輿於山上一

  △二▽   ノ △

 目代師高罪科上事 経

     ▽    ヲ       △           ▽   △

右雖レ令三言二上子細一于今不レ蒙二裁報一之間、神輿入洛之処、抑留之条是一山之大訴也。

  ルニ  ヲ

倩案二事之情一、白山者雖レ有二敷地一、是併T 三千之聖−供也。雖レ有二免由一、当任有名無− 8

      ▽    △           ▽       ス    △

実也。然者仏神事、断−絶顕然也。仍当年八講、三十講、同以断−絶。我山者大悲権現

  ▽           △    ▽   ス   ノ         △

和光同塵之素意候。近来参向拝社之族、又以断−絶。当二此時一而深歎切也。然者奉レ振二

▽ ヲ    シ              △ ▽   キ     カニセン△三ヲ▽

神輿一、所二啓参向一也。永忘二向後之栄一、五尺之洪鐘徒響、黄昏之勤誰明二冥道之徳一。

         ノ    四    △  ▽                △

在二千人−倫一迷癡之用深也。蓋全二示現将−来吉凶一哉。権現之御示現在之。然則不被レ

  ▽

 カカハラ ニ                △     ▽               ヲ

T  拘二制法一、既令レ附二敦賀津一。任二御寺牒之状一、 止二神輿上洛之儀一。 可レ待二御裁報一之 9

状如件。

                                 △

  安元三年二月廿日                       衆徒等

  ▽                △   ▽

とぞかきたりける・同廿一日せん当此状を取て帰のほりぬるうへは・さい報をあひ待とこ

△      ▽           △        ▽     △

ろに、遅々の間・しゆとらひそかに神よをぬすみいだし奉てとらばやとうかゞふところ

 

に、御こししゆごのものどもは、せん当法師、宮仕T法師等也。これをよびよせて、しろ 9

              ▽     △           ▽

き小袖を一づゝとらせて、酒をしゐふせたり・宮仕、せんたうしゐられて・ぜんごもしら

     △     ▽             △    ▽

でえひふせり。その間に早松の御こしをぬすみとり・東路にかゝりて・丹生の御こしをや

      △   ▽                  △ ▽

なゐがせをとほり、あふみのくに河内のはまにぞつきにける・それより小船に御こしをか

                                 △   ▽

きのせ奉て・東さかもとへをしわたらんとするところに・たつみの風あらくして、小松が

              △  、▽

はまにぞ吹つけたる・白山の大衆T 手づからみづから御こしさゝげたてまつりて・十ぜん 10

じの御まへにかきすへ奉る・山もんの大しゆら・せんぎしけるは・末社の神おろかならず

   △ ▽                     △五山 ▽

・ほん社のごんげんのごとし・まつじのそうといやしからず・本しやの大しゆとおなじ・

       △   ▽                  △     ▽

もく代ほどのものに一院をやかれて、いかでかさてあるべき・尤山門の大そたるべし・但

          △          ▽       △

たうじは院の御くまのまうでなり。御悦をあひ待まいらせんとて・白山ごんげんをば日吉

には客人の社といはひまいらせたり。T 早松の御こしをきやくしんの社にやすめ奉て、院 10

  ▽     △          ▽              △

の御くまのまうでの御悦をあひ待まいらせけり・さるほどに院すでに御下かうあり。山も

 ▽              △     ▽               △

んの大しゆら・白山のそせうをうけとりて、末寺のそうとらが申状かくのごとし・しん実

 ▽

此事もだしがたく候哉・こくしもろたかをるざいにおこなはれ・目代もろつねを・きんご

一 らくは

 (赤)「は」ニ声点。

二 師高

 (赤)「高」ノ左ニ「歟」ト傍書。

三 徳ヲ

 (赤)「徳」ノ上部焼損。

四 蓋

 (赤)右ニ「盖」ト傍書。

五 本しや

 (底)「しや」ニ見セ消チ。

 (赤)見セ消チノ印ト傍書ノミ判読可能。

P1092

                     △ ▽ (太)

くせらるべきよし奏聞せしを・さいきよをそかりければ・大政大臣已下・さもしかるべき

     △  ▽

公卿たちは・T あはれとく<御さいきよあるべきものを・さんもんのそせうは昔より他 11

         △ ▽      太宰          △ ▽

にことなる事なり・大くら卿ためふさ・ださいの輔すゑ仲は・朝家の重臣なりしかども

             △  ▽                  △

・大しゆのそせうによりて・流ざいせられにき・もろたかなどが事は・ものゝかずならず

▽                △    ▽             △

・しさいにやおよぶぺきと、内々は申されけれども・こと葉にあらはして奏聞の人なし。

        ▽       △

大臣はろくをおもんじてものいはず・少人は罪をおそれていさめずといふ事なれば、をの

                                   ▽

<くちT をとぢておはしけり。その時の見任の公卿にはかねざね、もろ長をはじめとし 11

   △            ▽            △     ▽

て・さだふさ、たかすゑにいたるまで、身をわすれて・君をいさめ奉り、力を尽てくにを

          △    ▽               △  ▽

全すべき人々にておはせしうへに・武威をかゝやかして・天下をしづめし入道のしそく、

               △ ▽

しげもりなどの・しく夜のきんらうをつみてこそおはしあはせしに・かれといひ是とい

                   △  ▽

ひ・もろたか一人にはゞかりて・こと葉にはかたぶけ申されけれども・いさめ申ざりけれ

 △       ▽               △ ▽

ば・T 君につかうまつるに、私法可然哉・せんしやのくつがへすをたすけずば・後車のめ 12

     △ ▽                  △ ▽

ぐる事をたのまむやとこそ・せうかをは太宗は仰られけれ・君もくらく・臣もへつらふべ

        △      ▽               △   ▽ 権 勢

き人<にやおはせし。いかにいはむ哉・君臣のくにをみだらんにをいてをや。又ごんぜい

       僻ヒカマンィ   △      ▽             △

のまつりごとの・たがはんにをいてをや。かも河の水・しゆく六のさい・山ほうしこれぞ

       ▽      △

我心にかなはぬものと・白河院も仰ありけると申つたへたり。鳥羽院御時、平泉寺をもて

                                ▽    △

T をんじやう寺につけらるべきよし、そのきこえあり。是によて山門の衆徒たちまちに騒 12

       ▽△

動して奏状、其状云、

 ▽           △

 延暦寺衆徒等解申請院庁裁事

 ▽フ (恩恤)テ  ノ          ヲ ク   ノ ト△

 請下曲垂息恤任二応徳寺−牒一以二白山平泉寺一永為中当山末寺上状

 ▽

 テカンカルニ ヲ   ニ ノ    テ一      ルコトノ ニ テニヌ  △

右謹検二案内一去応徳元年白山僧徒等、以二彼平泉寺一寄二付当山末寺一已_畢。于時座

                     △     ▽

 ▽  テ 二      ヲ   ノニ   リ    三メ       (訟)

主良真任二寄文旨一成二寺牒一付二彼山一畢。自レT 尓以_降依レ無二住僧之訴−詔一、不レ及二衆 13

    △  ▽   ル        リ      レ△  ▽       ノ

徒之沙−汰一、然−間去春彼山之住僧等、来二訴于当山一。是延−暦寺之末寺也。応徳寺牒

                            △   ▽

 モレリ ニ  △ ▽     シテヨリ ニ     テ ヲ ス テ ヲル ト

尤足二証験一。爰園城寺之覚宗、任二彼別当職一非法濫行遂レ日倍増。積レ愁為レ枕之間、

 テ  ヲ      △    ▽         四      △   ノ▽

以二当山一欲レ為二園城寺之末寺一云々。此条当山自レ本非無本山、就中日吉客人宮者白

          ノ△

       ヲハカルニ ヲ テラン     ▽  ス五 △   ニ ス

山権現也。垂跡猶測二彼神慮一定有二其故一歟。叡慮忽変。非君之不−明一非二臣之不直一

  ノ  ニ六ル   七    テモ ツ リ テ           セン

                                 キウシテ 八丹ヲ ス

我山仏法将以欲レ令滅−逃一也。泣而T 有レ余。仰二蒼天一而揮レ涙而何_為、丘二中丹一銷レ 13

 ヲ    シ九  ▽ヲ   △         ヲ    ▽ ソ キヤウ

魂。衆−徒若忽二諸朝威一者、懐愁、不可止一山之騒動一、裁報。之何無二遼迹一。望_請庁裁、

△(恩恤)シヲテ▽    ヲ モトノ キ    ノ△    ヲハ一〇

                                ▽ ソ    メ

曲垂息恤一 以二白山平泉寺一、如レ旧可レ為二天台末寺一之由、被二裁許一者、将慰二浄−行三

    ヲ △ラン ▽   カ ヲ

千之愁吟一、彌祈二仙院数百之遐齢一。仍勒状謹解。

          △

    久安三年四月日

 ▽

とぞ書たりける・比申状によて下さるゝ院宣云・

一彼平泉寺

 (赤)彼ノ平泉寺。

二文旨

 (赤)文ノ旨。

三 降メ

     タ

 (赤)降。

四 非無本山

 (赤)非レ無二本山一。

五 非

 (赤)非二。

六 欲レ令滅逃一也

 (山)欲レ令二滅逃一也。

 (内)欲レ令レ滅兆也。

七 逃

 (底)左ニ「兆 ウラカタ歟」ト傍

  書。

八 丹

 (底)同字ノ傍書。

九 忽二諸

 (底)上欄外ニ

 (諸)

 イルカセ「忽緒歟」トアル。

    ソ

一○ 裁許

      ヲ

  (赤)裁許。

P1094

 メテ ヲ キ ス ヲ シ ヲウ シ ニ  ス△  ニ  ▽

  集二官軍一可レ決雌雄之由、謳二l 歌山上一風二聞洛−T 中一。此事非二叡慮一之間、武士解レ郡、  14

         ▽

     △   ク  ノス   ク  ヲ         △  ▽

被レ返二本国一畢。如二衆徒申一者、仰二上裁一之間、六−時不断之行−法不退転之粂、非レ

              ▽

キニ      テ   △ ニ        ニ     テ ルニ   ノ△    ▽

無二叡感一。然者於二白山平泉寺一者、被レ付二山門一畢。此条依レ不レ浅二当山御帰−依一以レ

                    △

     一              ヲ カン  ▽ ヲ   テ      ニ

非為レ理、所レ被二宣−下也。但含二一山之咲一招二諸寺之嘲一歟。於二自−今以−後一者、可三

    △  ヲ  ▽               △

停二止非儀之濫妨一之由、可レ被触レ仰二衆−徒一之旨所候也。仍執啓如件。

                               (卿)

    久安三年四月八日                  民部郷顕頼

   T 天台座主御房                               14

       ▽     △            ▽            △

 昔江中納言まさふさとて・わかんの才人の申されける様は・神よをぢん頭にふりくだし

     ▽                 △   ▽

奉てうつたへ申さむ時は・君はいかゞかなはせ給ふべきと申されたりけるに・げにもだし

    △  ▽                   △  ▽

がたき事なりとぞ仰られける・去嘉応元年戌甲、みのゝかみ源のよしつな朝臣、たうごくの

二ニソ     △ ▽        三         △ ▽

雑たての庄をたふす間・山門久住者円応をせつがいす・此事をうつたへ申さんとて・大

            △  ▽

しゆさんらくすべきよし聞えT ければ・武士を河原へさしつかはしてふせがれし程に・日 15

                     △ ▽

よしのやしろのしやし・ゑんりやく寺の寺くわんつかう三十よ人許・申文をさゝげて、を

    △  ▽                     △   ▽

しやぶりて・ぢん頭へさんじけるを・後二条関白殿・中づかさの丞源のよりはるに仰て・

           △   ▽                  △

ふせがる・なを内裏へをし入らんとする間・よりはるが郎等八き是をいる・矢にあたる

 ▽                △           ▽ 四    △

もの八人・しぬるもの二人・しやし、所司四方へにげうせぬ。もんとのそうかう・子細を

奏もんのために下らくせんとしけれども、ぶしを西坂もとへT さしつかはして入られず・ 15

                  ▽   △             ▽

大しゆ日よしの神よを中だうにふりあげ奉て・関白殿をしゆそし奉、いまだ昔よりかくの

          △     ▽                 △   ▽

ごとくの事はなし・神よをうごかし奉る事・是がはじめとぞうけたまはる・まさふさの卿

                △  ▽

申されけるは・あはれぼうこくのもといかな・宇治殿御時・大しゆのちやうぼんとて・頼

△  ▽                  △ ▽

寿、良円等ながさるべきにてありしだにも・山王の御たくせんいさぎよかりしかば・すな

    △

   五を ▽                     △   ▽

はち罪名をなだめられて・さま<”の御おこたり申させ給ひしぞT かし・されば、此事い 16

                                       △

かゞあらんずらんと歎申されけり・三千人のしゆとらは・八王子へまいりて・しんどくの

 ▽  六                △ ▽胤

大般若をどくじゆし奉て・申あげのだうしには・中いんそうづなり・そのころのせつぽう

    △  ▽                 △  ▽

は・表白にしうくをもてさきとす・かねうちならして・大音声をあげて申されけるは・我

       △     ▽             △   七       ▽

らがけしの竹馬よりおゝしたてられ奉つる・七のやしろの御神たち、さうじかのみゝふり

      △

たてゝ聞給へ・後二条関白殿へ鳴矢一はなたせ給へと、さらずば三千人のT しゆとらにを 16

                         ▽     △

いては、ながく住山の思をたち、りさんの思にぢうして・八王子ごんげん二たびはいしまい

   ▽            △     ▽                △

らせん事ありがたしと申・ごん現御なう受わたらせ給へと・申あげを聞て・三千人の大し

   ▽                 △  ▽

ゆ一同にそとぞおめきたる・そのころある人八王子のやしろにまうでゝ・通夜をしたりけ

    △ ▽

る夜の夢に見たりけるは・御てんの内よりけだかき御声にて・兵主<とぞめされければ

          △ ▽                    △   ▽

・あふみのくに夜須の郡におはします・兵主の大明神おはしまして・T まいりて候と申さ 17

一所レ被二宜−下也

 (赤)所レ被二宜−下一也。

ニ雑

 (底)雑(九→立)。

 (赤)本文、傍書トモ(底)ニ同ジ。

 (山)「雑(九→立)たて」。傍番ハナイ。

 (内)「新たて」。右ニ「ニツ」左ニ

 「雑(九→立)」ト傍書。

三 せつかい

 (赤)「か」ニ声点。

四 そうかう

 (赤)「か」ニ声点。「う」ニ朱点一。

五 を

  (底)同字ノ傍書。

六 とくしゆ

 (赤)「と」「し」ニ声点。

七 さうしか

 (山)さほしか。

 (内)「さうしか」。右ニ「掉鹿」ト

 朱ノ傍書。

P1096

             一降 伏                    △

せ給ひければ・神のをんできがうぶくせよと仰られければ・うけ給候ぬとて・しらのにう

▽                     △ ▽

すやうづくりにつくりたる・かぶら矢を・しげどうの弓にうちくはせて・西へいたまいけ

       △  ▽                △   ▽

れば・そのかぶらおびたゝしく京中をなりまはりて・二条殿の御所のもやの御みすのへり

           ▽

      △ 二 おどろき             △      (矢) ▽

にたつとみて・夢うちさめてうつゝに聞ければ・御殿のうへのほどよりかぶら失のこゑ出

    △

て・ひえの大たけをこえて、西をさして行ぬ。ふしぎの事なりと思けるT 程に、そのあし 17

                      ▽     △      えたィ ▽

た二条殿のかうしの役しける侍の見ければ、もやの御みすのもかうにしきみの葉一たちた

               △   ▽                  △

りけり・それより関白殿は・山王の御とがめとて・ひだりの御かほさきに・御かぶれ出

    ▽           兄     △  ▽

て、やがておもらせ給ひしかば・御あにゝて天台貫首仁源理智房のざすと申し人は・大み

ねなどとほりて・世にきこえあるうげんの人にておはしましければ・ずいぶんにいのり申

           △   ▽                △    ▽.

されけり・それもさま<”のおこたり申させ給ひけれども・そのしるしもT なかりければ 18

・大殿の北のまんどころ・せめての御歎のあまりにや・御すがたを・やつさせ給ひて・忍

 △ ▽                    師 道

て十ぜんじの御まへに・七ヶ日御さんろうあて・関白もろみちの御やまゐをやめて・命ば

       △  ▽                   △    ▽

かりをたすけさせ給へとぞ・いのり申させ給ひける・もろみちこんどの寿命たすけさせ給

           △     ▽              △

たらば・一には東坂もとより西さかもとへ・くわゐらうをたてゝ・山そうらが三の山の参

 ▽     △

けいの時・霜雪雨露をしのがんがためなり。一には八王子の御前より十ぜんじのT 御まへま 18

                         ▽    △

でくわゐらうをつくりて、大衆以下のまいり下かうのともがらに・風雨をしのがんとなり。

  九七

   ▽           △     ▽    三候          △

一には三千人のしゆとに・毎年冬小袖を一づゝきせまいらせ候べし・一には我一期の間、

   ▽              △   ▽

都のすまいをすてゝ・宮籠とあひまじはりて、宮づかへ申候べし・一には長日の法花八講

四△ ▽

さいてんなく始行候べし・一には廊の御かぐら退転なく・又七社ごんげんに御百度・四季

   △ ▽                   △   ▽

にこれをきんずべく候・一には大とうろをかゝげ候べし・T 一にはもろみち・五人のむす 19

                            △ ▽

めあり・王城一の美女なり・これをもて田がくをせさせて・七社のごんげむに見せ奉らん

          △ ▽                    △   ▽

となり・なく<立願ありけり・此御りうぐわんは・御心中にこそおぼしめしけれ。人是

                △   ▽              △

をしらず・しかるを山王ごんげんのあらたにあらはさせ給ひける事こそおそろしく、身の

 ▽             △          ▽       △

けもたちておぼえけれ・おりふしそのころ出羽のくにはぐろより・月山の三吉と申けるわ

らは御子一人のぼりて、御やしろに参ろうしT たりけるが、にはかに御前の庭におどり出19

            ▽    △            ▽

て、一時ばかりまいおどり・庭にたはれふして絶入したりければ、かきいだせとて、門よ

     △     ▽                  △   ▽

りほかへいだしすてられにけり・二時ばかりあて・生出て十ぜんじの御前にまいりて・舞

          △  ▽                   △ ▽

おどる事おびたゞし・参詣の諸人、こはいかにと是をみる・しばらくありて大いきをつき

                   ノ                △ ▽

て・あせをおしのごいて申けるは・我円宗教法をまぼらんがために・はるかに実報花王の

                △     ▽

どを捨て・ゑあくじうまんの塵にまじT はり、十地ゑんまむの光を和て・此山のふもとに 20

                    △ ▽               △

年ひさし・きもんの凶害をふせがんとては・嵐はげしき峯にて日を暮し・皇帝のほうそを

▽                    △  ▽

まぼらんがためには・雪ふかき谷にて夜を明す・抑ぼん夫はしれりやいなや・前関白もろ

一 かうふく

 (底)「降伏」ハ左ニ傍書。

 (赤)「か」ニ声点。

二 うちさめて

 (山)「うちおとろきて」。傍書ハ

ナイ。

 (内)「うちさめて」。傍書ハナイ。

三 候

 (底)(赤)草体ノタメ同字ノ傍

書。

四 さいてん

 (赤)たいてん。

P1098

 △   ▽               △    ▽

ざねの北のまん所・しそくもろみちが所らうの事いのり申さんがために・此七ヶ日我まへ

 △          ▽       △

に参ろうして、かんふをくだき・紅涙をながして、せめての事にや、心中に種々の立願あ

                                    ▽

り。第一の願にはT 八王子の社より此みぎりまでくわゐらうを立て、しゆとの参しやの時 20

 △             ▽              △     ▽

・雨露のなんをふせぐべしとなり・此ぐわんまことにありがたし・されども我山の山そう

           △   ▽                △   ▽

等・三の山の参ろうの間・霜雪雨露にうたるゝをもて・行心のせつをあはれふ。おなじく

               △ ▽                  △ ▽

又八王子の・八町坂のくわゐらう・是まことにしゆ勝の事におもふらん・されども一さい

                     △ ▽

衆じやう・まよひおほく、さとりすくなし・さればみなあく道におつべし・是をあはれみ

   △ 一▽                      △ ▽

て・和光T 同ぢんのけつゑんとして・此ふもとに所をしめて・我にちかづかむものをば・ 21

              △ ▽                    △ ▽

あはれまんとなり・さればくわゐらうのぐわんはうけおぼしめすべからず・次に五人の娘

                 △   ▽              △

・王じやう一の美女をもて・田がくの事まことに此願の事、申につけてあはれなり。せめて

▽               △     ▽           △

の思のあまりとおぼえたり・尤しかるべしといへども・摂政関白の御むすめたちに、いか

      ▽     △

ゞさやうの役をばせさせ奉るべき。十ぽうだんなおほければ、此願とり<”におほし。され

                                 ▽   △

T うけおぼしめすべからず。次に大殿のきたのまん所、我下殿に参ろうして・きねにま 21

            ▽          △       ▽

じはらんとのぐわん、此事又おなじくいとをしく思奉る。さはあれども・大殿の北の政所

       △   ▽                 △  ▽

ほどの人を・我下殿にをき奉り・諸人かたはらともおほし・いかでかそれに同座せさせ奉

          △  ▽                 △  ▽

るべき・此事さかさま事なり・一々の願の中に・八王子八講にをきては、仏事なれば・我

             △ ▽                   △

うけおぼしめす・今生にをいては・かなうまじ。後生をばたすけ奉らん・うたがひT おぼ 22

しめすべからず・まことにおや子の昵・おんあひの契なれば・さこそかなしく思給らめ・

  △ ▽              、  △ ▽

たゞしもろみちの武士に仰て・我をむまのひづめにけさせ・しゆとおほくきずをかうぶり

  △   ▽                 △    ▽

・宮仕、せんたう・いころされぬ・三千のしゆと・なく<ほんざんへ帰のぼりて・おめ

       △     ▽             △          ▽

きさけむで・せんぎする音天をひゞかし・地をうごかす。すなはち衆徒のうれゐにあらず

     △

・しかしながら我なげき也。ぶしどもがいたる矢めといふは、すなはち我身にT あり。諸 22

                         ▽     △

人是を見よとて、みこかたぬぎたれば、左のわきのしたに・大なるかはらけのくちばか

       ▽           △    ▽

り、うけやぶれて血ながれたり・見る人身のけだちておそろしなどはいふばかりなし・こ

    △     ▽               △  ▽

れはいかに、我ひが事か・いのるともかなうまじ・定業かぎりあり・我力およばずとて・

           △ ▽                  △  ▽

山王あがらせ給ひにけり・是をきかせ給ひけむ・北のまん所の・御心の中、いかばかりな

                 △ ▽

りけむ・まことに御身のけだち・御涙にくれて・なく<御下かうあり・いつならはせ給

 △  ▽                    △ ▽

たるT 御あゆみならねども・御子のかなしさに・人めをもつゝませ給はず・御下かうあり 23

        △ ▽                   △  ▽

・御こゝろざしの程こそあはれなれ・されば仏も・ひもの恩ふかき事、大海のごとしとぞ

            △  ▽                  △    ▽

仰られける・神罰かぎりある事なれは・いのるいのりも・かなはせ給はず・色々の御願も

               △       ▽

御なう受なし・関白殿のさいごの御詞には、あなむつかしの・さるのおほさよ<とばか

△         ▽    △

り仰られて、去承徳元年六月廿六日に大殿にさきだゝせ給て、つゐにうせさせ給ひにけ

一 同ちん

 (赤)「ち」ニ声点。「ち」ノ左半分判読可能。

P1100

                                     ▽

り。御年卅八、T 御心のたけくことはりゆゝしき人にてわたらせ給ひけれども、まめやか 23

  △              ▽            △       ▽

に事の急になりにければ、御命をぞをしませ給ひける・まことにをしかるべき御命なり・

                  △    ▽

四十にだにいまだたらせ給はず・おやにさきだゝせ給ふもくちをし・時に取てあさましかり

△ ▽                 △ ▽

し御事なり・此御やまゐかん病し奉る人・御うしろに候人も・御前に候人も・立ゑぼしき

   △ ▽                   △  ▽

たるが・見えぬ程の事にて・たかく大きにはれたりけり・入棺し奉べき様もなかりけり・

      △   ▽   一                  △ ▽

大殿是を御らんT じて・御涙にむせばせ給ひつゝ・御いかけめして・かすがの大明神の御方 24

 二           △ ▽                 △ ▽

をふしおがませ給ひて・申させ給ひける事こそあはれなれ・たとひ山王大師の御とがめに

               △    ▽     三          △

て・もろみち世をはやうし候とも・かゝるありさまにて・はぢをかくすべき様も候はず。

 四▽                △   五▽          六

定業かぎりあり・命を申さばこそ、かたき事を申ともおぼしめされ候はめ・此おびたゝし

△           ▽      △

き姿を、もとのかたちになして給候へ・けうやう仕候はんと申させ給ひたりければ、御納

受ありければにや、たちT まちに御はらはれしえさせ給ひて、入棺事おはりにけり。その 24

七 ▽    △              ▽           △

御ぐわんの中に・長日八講の事、関白殿かくれさせ給ひぬるうへは・はたすに及ばず。八

  ▽               △   ▽           八   △

王子の御いきどほりふかくして・後二条関白殿を八王子のうしろの御子の・大ばんじやく

 ▽                  △ ▽       九

のしたにこめて・せめ奉り給ふ・雨ふり風ふきさゆる夜半ごとに・ばんじやくおもくなり

     △ ▽                  △  ▽

て・くるしみたえがたきあひだ・声をあげて・おめき給ふ・めには見えず・声ばかりする

        △  ▽       一○            △ ▽

間・上下諸人おそれT おのゝくところに・宮ごもりにつきてたくせんせられけるは・我は 25

                  △ ▽           一一

二条関白もろみちといふものなり・山王の御いきどほりふかくして・此ばんじやくの下に

 △  ▽                    △   ▽

こめられ奉る・此くるしみいかゞせんとて・さうの袖をおもてにあてゝなき給ふ・宮仕是

     △    ▽               △       ▽

を聞て・大殿へ此よしを申す・まことしからず・実ぷを見てまいれとて、侍一人さしつか

          △          ▽     △

はす・まことにおびたゝしくおめく声はすれども・一定の関白殿ともしりまいらせず、う

たがいをなすところに、御子わらはにT うつりて、いかになんぢは我をばしれりやいな 25

          ▽      △             ▽

や、二条関白もろみちといふものなり・山王の御いきどほりふかくして・いまだ中有まで

   △   一二  ▽                  △   ▽

も行ずして、此大ばんじやくの下に・こめられ奉る・そのゆへは・大殿の北のまん所・も

        一三    △   ▽                 △ ▽

ろみちがために・御ぐわんたてさせ給ふ中に・八王子の法花八講はうけおぼしめして・後

                 △ ▽                   △

生ぼだいをたすけんと・御りやうじやうありしを・もろみち死したればとて・つとめられ

  ▽   一四              一五△   ▽

ざるによて・此大ばんじやくのしたにこめらるゝ・ばんT じやくのおす事・たとへん方な 26

        △ ▽                      △  ▽

くたえがたし・神にいのり仏にちかふとも、たすかる事あるべからず・件の八かうをつと

                △ ▽

めて・此くを・のがらかされば・草の影にも立そひて・くらき所には・ともし火ともなり

△   ▽                   △    ▽

・あしからん道には・はしともならんずるぞと申・おやにさきだち奉る我身の・くわほう

      △        ▽            △

のつたなさ・いふばかりなし。いそぎ帰て此よしを申せとばかりにて、雨しづくとなき給

▽       △

ふ・侍もたゞいま見奉る心地して、左右の袖をしぼりあへず、なく<はせ帰て、此T よ 26

                            ▽     △

しを申せば、大殿仰られけるは、一期の程をおはらず、命をめされぬるうへは・是程又ふ

一 むせはせ

  (赤)「は」ニ声点。

二 ふしおかませ

  (赤)「か」ニ声点。

三 はち

  (赤)「ち」ニ声点。

四 かきり

  (赤)「き」ニ声点。

五 おほしめされ

  (赤)「ほ」ニ声点。

六 おひたゝしき

  (赤)「ひ」ニ声点。

七 御くわん

 (赤)「く」ノ声点ノミ判読可能。

八 大はんしやく

  (赤)「は」「し」ニ声点。

九 はんしやく

  (赤)「は」「し」ニ声点。

一〇 宮こもり

  (赤)「こ」ニ声点。

一一 はんしやく

  (赤)「は」「し」ニ声点。

一二 大はんしやく

 (赤)「し」ニ声点。「し」ノ上部焼

  損。

一三 御くわん

 (赤)「く」ニ声点。

P1102

       ▽            △      ▽

かき御かんだうこそくちをしけれ・かすかの大明神はわたらせ給はぬにこそ・おなじ氏子

     △    ▽                  △   ▽

と申ながら・関白にのぼる程のものを・すてさせおはしまして・是程すゑまで・物なくせ

       一     △ ▽                    △ ▽

めさせ給ふ事・しやう<”世々くちをしく候と・くどきたてゝなき給ひけれども・かひな

                 △ ▽                   △

き事にてぞありける・さて八講つとめよとて・日別に供料をあげて・八講をつとめさす・

     ▽                二△  ▽

T 七日と申けるに・関白殿大ばんじやくのしたを出て、のがれさせ給ひて・紫雲にのり西 27

       △  ▽                  △ ▽

をさして・おはするとて・大殿の御所のうへにて・おほきなる声をもて・のたまいけるは

              △   ▽                △

・おそれてもおそるべきは・七社ごんげんの御風情・憑てもたのむべきは・八王子権げん

▽    三            △      ▽            △

のほんち・千手千げんの御ちかひなり・我法花八講のくどくによて・たゞいま極楽じやう

            ▽       △

どへまいり候。御心やすくおぼしめし候へ・とをきまぼりとなりまいらすべしとつげしめ

                                       ▽

し給へば、大殿庭T 上にはしり出させ給ひて、西へ行しうんに御手をあはせて、我をもお 27

     △            ▽            △  四 ▽

なじく・具しておはせよやとて、人めをもはゞからず・御声をあげておめきさけび給へど

                △    ▽                 △

かひなし・そのゝちかの八かうのために、御家領・紀伊国田中の庄をぞよせられける・老

 ▽                   △ ▽

少不定なり・かならずおやにさきだつまじといふ事はなけれども・生死のおきてにしたがふ

   △ ▽                  △  ▽          五

ならい・まんとくゑんまんの世そん・十地くきやうの大士、力およばざる事なれば・じひ

              ▽

    六    △    七                   △ ▽

ぐそくの山に・なさけT なく、かうふくし給ふべし・やなれども・王くわう利もつの・ほ 28

                  △ ▽、                △

うべんなれば・おりふしとがめさせ給ふ・されば昔も今も山門のそせうは・おそろしき事

P1103 一〇三

▽      △

とぞ申つたへたる。

    ▽               △   ▽

 安元二年六月十二日・たか松の女院かくれさせ給ひぬ・御とし卅三・是は鳥羽院第六の

  △      ▽           △        ▽       △

姫宮・二条院の后にておはしましき・永万元年に御とし廿二にて御出家ありき・おほかた

 

の御心ざまわりなき人にて、人をしみ奉事かぎりなし。

                                  ▽    △

 T 同年七月八日、けんしゆん門院かくれさせ給ひぬ。御とし卅五。是は贈左大臣時のぶ 28

           ▽          △     ▽

の御むすめなり。法皇の女御・当帝高倉院の御母儀なり。先年に不例の御願をはたさんと

   △    ▽               △   ▽       八

て・御歩行にて御くまのまうでありけり・四十日に本宮にまいりつかせ給ひて・こんげん

          ▽

        △胡飲 酒                △ ▽

ほうらくのために・こおんしゆといふまいをまはせて・おはしましけるに・にはかに大雨

             △ ▽                    △

ふりけれども・舞をとゞめず・ぬれ<まいけり・せんじを返すまいなれば・権現もT め 29

 ▽                  △ ▽

でさせ給ひけるにや・去春のころより・御身の中くるしく・世中あぢきなくおぼしめしけ

  △ ▽    九   一〇       一一△ ▽  り

るが・さんぬる十日院がうを御じたいあり・今日の朝・御出家あて・夕に無常の道におも

                                                        △

     △  ▽            諒  闇    ▽

むかせ給ふ・院中の御歎申もおろがなり・天下りやうあんのせんじを下さる・かゝりけれ

       △ VA      一二▽              △

は・御けうやうのために、せつしやうきんだんを・おこなはれけり・その比おりふし伯耆

   ▽玄 尊    △

のそうづげんそん・あふみのくに大かの庄をめされて歎けるに、院御歎やうやく期過て、

                                 ▽     △

T 人<御めざまし申されける時、げんそんつゐたちて、せつしやうきんだんとはいへども 29

           ▽            △      ▽

<と三ど申て、院の御前ちかくまいりて・大鹿はとられぬと申てはしり入ぬ・院ゑつぼ

一四 大はんしやく

 (赤)「は」「し」ニ声点。

一五 はんしやく

  (赤)「は」「し」ニ声点。「し」ハ声

点ノミ判読可能。

一 しやう<

 (赤)「<」ニ声点。

二 出て

 (底)「出」「て」ニ見セ消チ。

三 千手千けん

 (赤)「手」「け」ニ声点。

四 さけひ給へと

 (赤)「ひ」「と」ニ声点。「ひ」ノ上部焼損。

五 しひくそく

 (赤)「し」、上ノ「く」ニ声点。

六 山に

 (赤)山王。

七 かうふく

 (赤)「ふ」ニ声点。

八 こんけん

 (赤)「こ」「け」ニ声点。

九 院かう

 (赤)「か」ニ声点。

一〇 御したい

 (赤)「し」ニ声点。

一一 朝・

     ニ

 (赤)朝・。

一二きんたん

 (赤)「た」ニ声点。

P1104

         △   ▽                △   ▽

にいらせ給ひて・かの大鹿を返給てけり・同廿七日・六条院崩御。御年十三・故二条院の

              △ ▽(太)                △一▽

御ちやくしぞかし・御とし五さいにて・大上天皇のそんがうありしかども・いまだ御げん

                  △

ぶくなくて・崩御なりぬるこそあはれなれ。

   ▽                   △   ▽

 治承元年ひのとのとり・四月十日は日吉の御まつりT にてあるべかりけるを・大しゆう 30

        △ ▽                   △ ▽

ちとゝめて・十三日たつの時に・しゆと日吉七しやの御こしをかざり奉り・中だうへふり

             △  ▽                   △

あげたてまつりて・八王子、客人、十ぜんじ等の・三社の御こしを・ぢん頭へふりくだし

▽               △   ▽

奉て・もろたかをるざいせらるべきよしをうつたへ申さんとて・西さかもと・さがり松・

△       ▽      二       △          ▽

きれづゝみ、かも河原・たゝすのとうほく院・法城寺辺に神人、宮仕じうまんして・こゑ

△                        三 ミ

をあげてさけぶ。京中しら川のきせん来あつまりて是をおがむT 奉る。是につゝきて、き 30

                    ▽     △

をん、北野二杜、つがう十一社の御こしをぢん頭へふりくだし奉る。その時の皇居は、里

▽            △      ▽              △

内裏かん院殿にてありけるに・白玉、金鏡、緑羅、紅絹をかざり奉る・神輿あさ日の光に

▽                △   ▽

かゝやきて・日月の地におち給ふかとあやまつ・一条を西へ入せ給ひけるが・十ぜんじの

△ ▽                    △ ▽

御こしすでに、二条からす丸・むろ町辺にちかづかせ給ひければ・源平のつはもの四方の

   △  ▽                   △  ▽

ぢんをかためたり・その時平氏の大しやうぐんには・小松のT 内大臣しげもり公・にはか 31

          △ ▽                   △ ▽

の事なりければ・直衣に失おいて・こがねづくりのたちはきて・れんぜむあしげのむまの

             △ ▽                △   ▽

・ふとくたくましきに・黄ぶくりんのくらをきて乗て・伊賀、伊勢両国のわかとうども・

            △   ▽               △頼 政

三千よきあひぐして・東おもてのさゑもんのぢんをかためたり・源兵庫頭よりまさは、け

顕文四沙          △           ▽ 切 生 征矢△

んもんしやのかりぎぬに・上くゝりて、ひおとしのよろいに・きりふのそやに、しげどう

 

の弓のま中とり、二尺九寸のいかもの作のたち、T かもめしりにはきなし、かげなるむま 31

                                                                         ▽

           ▽   △           五競を歟 唱

に白ぶくりんのくらをきて乗たりけり。つゝく源太、授、省、きわう、となふとて・一人

   △      ▽               △    ▽

たう千のはやりおのわかとう・三百余人あひくして・北ぢんのからもんをぞかためける・

      △   ▽                  △  ▽

神輿かの門より入せ給ふべきよしきこえけれは・よりまさ・さるふるつはものにて・神よ

         △ ▽                    △ ▽

を敬屈し奉るよしを見せんとて・むまよりとびおりて・かぶとをぬぐ・大将軍かくすれば

          △  ▽                  △ ▽

・家子らう等以下三百余T 人みなかぶとをぬぐ・大しゆ是をみて、様あるらんとて・しば 32

             △ ▽            シ   △  ▽

らく御こしをゆらへ奉る・よりまさは・らう等にわたなべの丁七となふをめして・大衆の

           △  ▽                △   ▽

中へ使者をたつ・となふは生年三十四・たけ七尺ばかりなるおとこの・しろくきよげなる

          △        ▽           △

が・褐衣のよろいひたゝれに、くろかわおどしの・大あらめのよろいのいかな物うちたる

   ▽     △

に、へうのかわのしりさやの太刀はきて、くろつ羽のそやのつのはす入たるT 廿四さした 32

                         ▽  △

るを、かしらだかにおいなして、ぬりこめ藤の弓のにぎりぶとなるに、大長刀とりそへた

  六▽          △      ▽              △

り。かげなるむまのふとくたくましきに、くろ鞍をいてぞ乗たりける・御こしすでに近つ

 ▽                △   ▽

かせ給へば・むまよりとんでおり・かぶとをば左のうでにかけて・弓とりなをして、御こ

△  ▽                  △ ▽

しの前にひざまづいて申けるは・北おもてのから門をば・源ひやうごの頭よりまさかため

一 御けんふく

 (赤)「け」ニ声点。

二 とうほく院

 (赤)「ほ」ニ声点。

三 おかむ

 (底)「む」ニ見セ消チ。「ミ」ハ左ニ傍書。

 (山)拝み。

 (内)おかみ。

四 沙

 (赤)紗。

五 きわう、となふ

 (山)競を唱とて。

 (内)「きわうとなふ」トシテ「きわう」ニハ「競を歟」、「となふ」ニハ「唱」ト朱ノ傍書。

六 かけなる

 (赤)「け」ニ声点。「け」ノ右上焼損。

P1106

   △  ▽              △   ▽

られて候。大衆の御中へ申せと候・昔は源平両家T 左右のつばさのごとくにて・すこしも 33

  △ ▽           一      △ ▽

勝負候はざりしか・源氏にをいてはほうげん・へい治よりみな絶はてゝ・大りやくなきが

     △ ▽                 △   ▽

ごとし・かりまたをさかさまにはむる身にて候へども・六そんわうのすゑとては・よりま

   △     ▽               △     ▽

さ一人こそ候へ。山王の御こしぢんとうへ入ベきよし、その聞え候あひだ・公家ことにさ

    △          ▽   △

はぎおどろかせまし<て、源平の官兵四方のぢんをかたむべきよし、せんじをかうぶり

      ト                               ▽

候によて、王土にT はらまれながら、勅命をたいかんせんもそのおそれあるによて、なま 33

   △             ▽         △ 二    ▽

しいに此門をかためて候。こんど山もんの御そせうりうんの条、もつろんに候・御聖断の遅

       △    ▽                 △   ▽

々こそ・よそまでもいこんに候へ・そのうへよりまさは・いわう山王にかうべをかたぶけ

          △ ▽                  △ ▽

て年久しく候・わざとも此門よりこそ入まいらすべく候へども・神いをおそれ奉て・御こ

             △  ▽         (綸)      △   ▽

しを入まいらせ候はんは・りんげんをかろくするとかあり・倫言をおもんじて・T 神よを 34

              △ ▽                  △ ▽

ふせき奉らば・冥の照覧はかりがたし・しんだいこれきはまれり・かつうは又小松内大臣

              △ ▽                  三 △

以下のくわん兵、大勢にてかためて候門々をば・ゑやぶらせ給はで・わづかのぶせい

四所を▽                △   ▽

の御らんじて・入せ給ひぬるものならば・山の大衆はめたりいんぢをしけりなとゝ・京わ

 △     ▽             △          ▽

らんべのくちのさがなさは・申候はん事も、山の御名おりにてや候はんずらん・かつはこ

とに天聴をもおどろかし奉らんとおぼしめされ候はゞ、T わざとも東西の多勢の門をうち 34

           ▽     △          ▽

やぶらせ給ひて入せ給候はゞ・いよ<山王の御威光もめでたくまし<・衆徒の御そせ

 △五     ▽            △   ▽

うもじやうじゆしましまさん事・今一気味にて候ぬべければ・御こしをばさゑもんのぢん

 △   ▽                  △  ▽

へまはしまいらせらるべくや候らん・所せんかく申候はんうへを、をしやぶらせ給ひ候は

        △  ▽          六     △ ▽

ゞ・力および候はず。後代の名がをしく候へば・じこんい後にをいては・六そんわうより

        △   ▽               △ ▽

つたへて候・弓矢のT 手をこそはなち候はんずらめ・命を山王大師に奉り・かばねをば御 35

        △ ▽                 △ ▽

こしの前にてさらすベしと申せと候・御つかいはわたなベの丁七となふと申ものにて候と

       △  ▽              △    ▽

て・いむけの袖を引おさめて・かしこまで候ければ・大衆是を聞、何条別のしさいにやお

                                                                            ▽

    △      ▽            △    摂津 竪者 七   △

よぶベき・たゞうちやぶれといふものもあり・その中に西塔法師つのりつしやがううんと

申けるは、三たうーの云口、大あく僧也けるが、もへぎT  いとおどしのはら巻、衣のした 35

            ▽  △            ▽          △

にきて、太刀わきにはさみてすゝみ出て申けるは、此よりまさは・としごろ地下にのみあ

    ▽△

りし事を歎て、

     ▽                 △ ▽△

  いつとなく大うち山の山もりは木がくれてのみ月を見る哉

 ▽              △ ▽                   △

とよみて・昇進ゆりたりしやさおとこごさんなれ・又四十ばかりなる大衆の・そけんの衣

▽                  △ ▽

にかしらつゝみたるが・しはがれたる大の声にて申けるは・いまよりまさが条々申たつる

 △    ▽                 △  ▽

所・T そのいはれなきにあらず・神よをさきにたて奉りて、しゆとそせうをいたしながら 36

 八    △ ▽                  △  ▽

・ぜんあく大てをうちやぶつてこそ後代の名もいみじからめ・さすがよりまさは・六そん

         △ 九▽  一〇           △    ▽一一武芸

わうよりこのかた・弓矢のげいにのぞんで・いまだそのふかくを聞およばず・ぶげいにを

一ほうけん

 (赤)「け」ニ声点。

二もつろん

 (山)(内)もちろん。

三 ふせい

 (赤)「ふ」ニ声点。

四 所を

 (底)補入ノ印ハナイ。

 (赤)「を」判読可能。

五 しやうしゆ

 (赤)「しやう」ノ「し」声点ノミ

判読可能。

六 しこん

 (赤)「し」ニ声点。

七 かううん

 (赤)「か」ニ声点ラシイ二ツノ朱

丸ガアル。筆デ書イタモノト思

ワレル。

八 せんあく

 (赤)「せ」ニ声点。

九 けい

 (赤)「け」ニ声点。

一〇 のそんて

 (赤)「そ」二声点。

P1108

       △      ▽           △          ▽

いては当家の職なればいかゞはせん・風月のたつしや・和歌の才人にて世にきこえある名

 △ V

人ぞかし・一とせ近衛院御時、鳥羽殿にて当座の御会に、深T 山の花といふ題をれん中よ 36

              ▽   △             ▽

り出されたりけるに、左中将ありふさなど聞えし歌人ともゝ読わづらゐたりしに・よりま

   △      ▽  △

さめされて、やがて仕たりける。

    ▽                    △

  み山木のそのこずゑともみえざりし桜は花にあらはれにけり

 ▽               △  ▽                 △

といふ名歌を読たりしかば・天かんあり。満座興をもよほして、ちよくろくに預て・名を

▽                 △  ▽

あげたりし者ぞかし・又同院の御時・嵯峨野へ御行のありしに・みちにてかるかやといふ

T 給て、                                 37

  ▽                         △

  とを山をまぼりにきたる今夜しもそよ<めくは人のかるかや

 ▽                   △ ▽

うちつゞき御方の北のたいにて・ひだりまきの藤ふち、きりひおけ、よりまさといふ題を

 △

給て、

    ▽                    △ ▽△

  水ひたりまきのふち<おちたぎりひほけさいかによりまさるらん

  ▽                 △     ▽          △

とよみて勅かんにあづかりけるものぞかし・それのみならず・弓矢にとてこそふさうの者

          ▽    △

なれ。鳥羽院御時、ぬえと申化鳥か、竹の御つぼに鳴事たびかさなりければ、天聴をおと

                                  ▽   △

T かし奉る。公卿せんぎあて、武士に仰ていへきにさだまりて、よりまさをめして仕れ 37

          ▽         △     ▽

と仰下さる。昔より内裏をしゆごして奉公しける間、辞し申におよばず・かしこまて承候

 △     ▽                △   ▽

ぬとて、仕へきになりぬ・よりまさ思けるは・けさやはたへまいりたりつるが、さい後に

        △ ▽                    △ ▽

てありけり・是をいはつしつるものならば、弓ともとゞりとは・たゝ今きりすてんずるも

           △  ▽                △    ▽

のをとて・八まん大ぼさつ源氏をすてさせ給はずは・弓矢にたちかけりT まぼらせ給へと 38

           △ ▽                △  ▽

きせいして・しげ膝の弓にかぶら矢二すぢとりくして・竹のつぼへまいる・見物の上下諸

          △ ▽               △    ▽

人めもあへず見る程に・夜ふけ人しづまりてのち・例の怪鳥二声ばかりをとづれて・雲井

        △     ▽               △       ▽

はるかにとびあがる。よりまさをしゝつめて一の矢に・おほきなるかぶらをうちくはせて

          △           ▽   △

・よびきてしばしかためて、ひやうといたり。大なりして雲のうへゝあがりければ、化鳥

かぶらの音におどろきて、上へはT あがらず、しもへちかいてとひさかる。よりまさ是を 38

     ▽   △             ▽          △

見て、二の矢にこかぶらを取てつかい、こひきにひきて・さしあて、ひやうといたり。ひ

  ▽              △     ▽               △

ふつとま中をいきつておとしたり・手もとにこたへておぼえければ・えたりおふと矢さけ

  ▽(太)             △  ▽                △

ひする・大上天皇御かんのあまりに・御衣を一かさねかつけさせおはしますとて・御前の

 ▽                  △  ▽

きざはしをなからばかりおり給ふ・ころは五月の廿日あまりの事なるに・左大臣しばしや

T らひて、                           39

  ▽

  五月やみ名をあらはせる今夜かな

 △  ▽                 △  ▽

と連歌をしかけられたりければ・三階に右のひさをつきて・左の袖をひろけて・御衣を給

    △  ▽      △

とて、よりまさこのむくちなれば、

一一 ふけい

  (赤)「ふ」「け」ニ声点。

P1110

(以下後日)

 

 平家物語巻第二十 46オ 最後の丁(原本通りに改行)

 

の春のころ、むらさきの雲のむかひを待えつゝ、

御往生の素懐を遂させ給けり。一期の御

廻向むなしからざれば、御一門の人々も、一仏浄土

の縁御疑有べからず。昔の后妃の位におはし

まさば、栄耀御心にそむで、御執心もおはしま□(虫食い)

べし。源平の逆乱に神をくだき、〓離穢

土の御心ざし深かりけり。されば悪縁を善

縁として遂に御本意を成就せられけり。

ある人の云、妙音菩薩の化身におはしま

すと云云。

 

 

平家物語

 

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